(まあ、いつものことだしーーーーーー)
と、自分を慰めながら、授業を受ける支度をする。
すると、不意に、
「あ、あの……立花くん!」
と、声をかけてくる女子生徒がいた。
小柄で肌や髪の色素の薄いクラスメートで、吹奏楽部の朝練を終えたばかりの
「一昨日は、大丈夫だった? 空き教室で、なにかあったみたいだけど……」
そう言えば、月曜日の放課後の一件は、彼女に協力をしてもらっていたのだった。
さらに、オレは、
浜に対して、申し訳なさを感じつつ、返答する。
「ん? あぁ、ちょっと、オレが転びそうになって派手に机を床にぶちまけてしまってな……こっちは、ケガとかは無かったから、心配しないでくれ。それより、オレのせいで、浜も変なことに巻き込んでしまったな。本当に済まない。昨日、先生から叱られなかったか?」
遅ればせながら、自分の心身にはともに問題ないことを伝え、オレの考えた稚拙な計画にチカラを貸してもらいながら、空き教室のトラブルに巻き込んだことを謝罪し、そのうえで、彼女の身を案じるようにたずねると、小柄な女子生徒は、真剣な表情で聞き返してくる。
「私は大丈夫だよ。ちょっと、先生から注意されちゃったけど……それより、空き教室で大きな音がしたって聞いたから……立花くん、ホントにケガとかしなかった?」
彼女の健気な言動は、今日から、またクラス内ぼっちか……と覚悟を完了していたオレのココロに、優しく染み渡った。
「いや、本当に大丈夫だから! 心配してくれて、ありがとうな。嬉しいよ」
そんな風に、お礼の言葉とともに素直な気持ちを述べると、彼女は、
「そっか…良かった……」
と、今度こそ、心の底からホッとしたような嬉しそうな表情を浮かべる。
家族以外の誰かから自分のことを案じてもらうような経験の少ないオレは、こうしたそのようすを不思議に感じて、ふたたび、クラスメートにたずねる。
「あぁ、けど、どうして、そんなにオレのことを気に掛けてくれるんだ?」
あの場には、オレ以上に身の危険を感じていた上坂部や、次屋とのもみ合いに発展したかも知れない久々知がいたことを浜小春は、知っているはずだからだ。
「うん、葉月ちゃんから聞いたんだけどね…立花くんは、私の髪の色のことを
と、そこまで言うと、(少なくともオレにとっては)銀髪のように見える美しい髪の持ち主は、はにかんだように薄く微笑みを浮かべたまま、うつむき加減に上目遣いでこちらに視線を送ってくる。
(な、なんだ、この可愛らしい存在はーーーーーー?)
これまで経験したことのない空前、そして、おそらく今後二度と無い、絶後となりそうな体験に動揺し、教室内のようすを確認すると、ほとんどの生徒がオレと浜の会話に構うことなく、それぞれ他の生徒と会話を交わしているのだが、視界に入った中で、ただ一人、こちらようすを微笑みながら見つめる生徒がいた。
その人物、
(いや、なんなんだ、その意味ありげなポーズは!?)
オレが、困惑しながら、心のなかで窓際の席のクラス委員の女子にツッコミを入れていると、今度は、不意打ちのように廊下側から声がかけられた。
「あ〜、立花クンが、女子とお話ししてる〜! 珍しい〜」
そう言って、オレと浜の会話に絡んできたのは、オレの頭を悩ませ続ける転校生だった。
「な、なんだよ
戸惑いながら反論すると、リッカは、澄ましたままの表情で返答する。
「別にそんなことは言ってないけど〜。ただ、珍しいこともあるなって率直な感想を言っただけなんだけどな〜」
そんな彼女の言葉に、オレの背後から思わぬ援護をする生徒があらわれた。
「別に珍しいことじゃないと思うけど! 二年になってから、ボクや女子ともたくさん話してるもん!! そうだよね、ムネリン?」
そう言って、座席の後方からフォローしてくれる塚口まことの言葉に、オレは、少し驚きながら反応し、
「お、おう!」
と、返答する。
すると、リッカは、つまらなそうな表情で、「ふ〜ん」とつぶやいたあと、顔色を変えることなく、
「ずいぶんと仲の良いクラスメートが増えたのね、立花クン」
と言ったあと、いきなり、オレの耳元に寄って、
「私との約束は、もう忘れちゃったんだ――――――ムネリン……」
と、ささやく。
寂しさと憂いを含んだような声色が、オレの鼓膜をくすぐった。その感覚に、ゾクリと背筋に電流が走ったかのような感触を覚える。
「い、いや、忘れたわけじゃ……」
そう言って、椅子から立ち上がったオレに、そばにいた女子生徒と男子生徒の視線が集まる。
オレとリッカの過去に関わる
そう判断して、リッカに、
「ここじゃ話せないから……!」
と告げて、彼女を教室の外に連れ出した。