「え? ……あっ!」
今回の任務は対象者を探すこと。
言ってしまえば生きてるか死んでるかを確認できればいい。
そしてオレたちは対象者が生きていることを確認している。
結姫の言う通り、任務は既に達成していることになる。
けど。
「助け出したいんでしょ?」
「さすが結姫さん。わかっていらっしゃる」
「パートナーだから」
その台詞、なんかすげー嬉しい。
なんだか今日の結姫はデレデレじゃねーか。
どうしたんだ?
なんか変なもんでも食ったのか?
とにかくオレのテンションがグングン上がっているのが自分でもわかる。
「結姫、胸揉んでやろうか?」
「死にたい?」
「あ、間違えた! 肩だ、肩。肩揉んでやるよ」
「死んで」
「対応があんまり変わらない!?」
なんだよ。
感謝の礼として肩くらい揉ませてくれよ。
まあ、凝ってないだろうけど。
「一つ約束してほしい」
急に結姫が真剣な顔でオレの目を真っすぐ見る。
いつもなら「結姫は美人だな」なんて軽口を言うところだが、それを言わせないほどの威圧感がある。
「お、おう。なんだ?」
「恵介くんは佳穂さんとあの人を重ねている」
「……」
否定できない。
最初は今回の対象者が佳穂じゃないかと期待していた。
それが違うとわかった今でも、やっぱり心の中で重ねてしまっているんだろう。
自分でも気づいてなかったことを、結姫は既に見抜いていた。
「命を懸けてでも助けるなんて考えないで」
「……」
また言葉が詰まってしまう。
自分が死んだとしてもあの人を助ける、とまでは考えていなかった。
だが、かなり無理してでも助けたいとは思ってしまっている。
いつもだったらオレの方から帰ろうと言ったかもしれない。
結姫の言う通り、任務は達成している。
あとは報告書に『亜人に捕らわれている状態。スキルを利用されている可能性がある』と書けば、救出任務が新たに発生するはずだ。
ただ、その場合、既にこの世界に来ているオレたちは、リミットのことを考慮して外される。
それにもっと適材なエージェントが派遣されるだろう。
それがわかっているから、帰るという選択肢は外したのだ。
「目的を忘れてはダメ。佳穂さんを探すんでしょ?」
さすが結姫。
オレのことをわかっている。
これを言われると……いや、こう言われないとオレは暴走しかねない。
そう。
優先すべきは佳穂だ。
たとえ、あの人を見捨てることになっても、オレは死ぬわけにはいかない。
そう考えると、頭が冷えてきた。
「わかってる。要は余裕で助け出す策を考えればいいだけだろ? 簡単だぜ」
「いつもの調子になった」
わずかに微笑み、オレに向けていた威圧感を解く。
「それで? どうするの?」
「……」
「いつもの調子になった」
「いつもはズバッとすげー策を出してるだろうが!」
「ホントに?」
「うっ!」
いや、出してるよ。
……出してるよな?
もしかしてオレって自己評価高いだけ?
それはショックなんだけど。
「い、一旦、情報を整理しようぜ」
「うん」
「対象者は鬼の住処にいることはわかった」
「そうね」
「地下に監禁されてた」
「そうね」
「地下への入り口は1つで、今は厳重に警戒されている可能性が高い」
「そうね」
改めて考えても、あそこから助け出すのはかなり難易度が高い。
……無理ゲーじゃね?
なんて現実逃避をしようとしたときだった。
オレの頭脳に一発逆転の策が浮かび上がる。
「ふっふっふ。来たぜ、来たぜ! すげー策がビビッと脳みそを直撃だ」
「聞かせて」
「地面をぶち抜くんだよ。で、鬼たちがオロオロしているうちに、さっと拉致っちまえばいいんだよ。暴れるようなら気絶させて」
……後半は悪人の台詞に聞こえるような気がするが、きっと気のせいだろう。
とにかく、この策でいくしかねえ。
「そもそも」
「ん?」
「もう地下にはいないんじゃない?」
「……あ」
そうだ。
脱出するときに天井をぶち抜いたんだから、地下の部屋自体が崩壊しているはずだ。
となれば、あの地下の部屋にいる可能性は低い、というか皆無だろう。
てことは、また鬼の住処の中を探し回らないとならない。
絶賛、警戒中の鬼たちに見つからないように。
……あれ?
これ、詰んでねーか?