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第30話 もう一回チャンレンジ

 あの人を助け出すには、まずは場所を特定しないといけない。

 警戒されているだろうから、人目に付かない場所にしているはず。

 建物をしらみつぶしに探すという方法もあるが、時間的にも人数的にも無理がある。


 あとは鬼に直接聞くという方法か。

 ただ、オレたちは鬼を傷つけられない。

 つまり拷問……力ずくで聞き出すことはできないということだ。


 じゃあ、交渉はどうだ?


 ……現実的じゃねえ。

 こっちには鬼に対してメリットとなるようなものを提示できない。


 うーん。

 どうすっかな。


「なぜ彼女は生かされてると思う?」


 腕を組んで頭をひねっていると、結姫が呟くように言った。


「へ? ……ああ、確かに」


 助け出すことばかり考えていて、状況の整理が不十分になってた。

 さっき、情報を整理するって言ったばかりだったのに。


「えーっと。わざわざ、住処に監禁してるってことは鬼に何かしらのメリットがあるってことだよな?」

「鬼と人は争っているようだから、間違いないと思う」

「パッと思いつく理由は、奴隷として人間を捕まえているとか、か」

「その割には他の人間は見なかった」

「だよなぁ」


 結構広い場所だったのに、あの人以外の人間を見なかった。

 奴隷として人間を捕まえているのだとしたら、他にも人間がいるはずだ。


 それに鬼に遭遇した時、やつらはいきなり襲ってきた。

 どう見ても捕まえようとはしていなかった。


 そもそもこの世界の人間はスキルを持っている。

 それを集団で捕まえて、住処で反乱なんて起こされれば、鬼の方のダメージの方が高い。


「ってことは『あの人だから』捕まえている可能性が高いな」

「そうね」


 あの人と他の人間の違い。

 それは……。


「勇者だから」


 また結姫に先回りして言われてしまう。


 オレだってわかってたのにぃ。


「けどよぉ。勇者だぜ? 普通の人間よりも捕まえておくリスクが高いだろ」


 転生者である勇者は、その世界に住む人間たちよりも強力なスキルになる可能性が高い。

 となれば、かなりの強さになるはずだ。

 どう考えても、捕まえておくよりも殺した方がメリットがあるだろ。


「恵介くん。彼女はどこにいた?」

「どこって……地下だろ」

「その地下の部屋は何に使われてた?」

「ん? そりゃ、牢屋……じゃない」


 そうだった。

 そもそも、あの場所を見つけたのは鬼が運ばれていたからだ。


 現に、あの場所には多くの鬼がベッドで寝ていた。


「病院ってところか」

「そう。そして強力なスキルに目覚めたとしても『攻撃型』とは限らない」

「あっ!」


 結姫のおかげでぴったりとピースがハマった気がする。


「あの人のスキルは回復系」

「それなら生かすメリットも、捕えておくリスクの問題も解決する」

「そうだな。転生者はスキルに目覚めるけど、身体能力が向上するわけじゃない」


 そういうスキルじゃない限り。


「だから、そういう施設に監禁されるはず」

「なるほどな。それなら場所を絞りやすいし、探しやすそうだな」


 コクリと頷く結姫。


 よし。

 策を練るためのとっかかりができた。

 これならなんとかなりそうだ。


「また怪我人を見つけて、どこに運ばれるのかを見てればいい」

「それだと、待たねーとならねーだろ? ここはもっとアグレッシブにいかねーか?」

「どうするの?」

「ふっふっふ。いい策がある」

「どんな?」

「まあ、今日はもう寝ようぜ。明日、朝一で街で買い物をしてぇ」




 次の日。

 オレたちはまた街へと行き、必要なものを買いこんだ後、ダンジョンに入る。

 そして鬼の住処の中へ侵入した。


 昨日と同じように広場では子供の鬼が無邪気に遊んでいる。

 それを木の陰からジッと見ているオレ。


 もちろんそういう作戦なのだ。

 決して危ない人ではない。


 しばらく見ていると、子供の鬼が一人、こっちに走ってくる。

 どうやら鬼ごっこをしているようだ。


 オレが潜んでいることに気づきもせずに、無邪気にやってくる。

 木の陰から手を伸ばし、子供の鬼の口を手で塞ぐ。

 そして子供の鬼を木の陰に引きずりこむ。


「んんーーーー!」

「ふっふっふ。いらっしゃーい!」

「んーーーーーー!」




 子供の鬼が、大人の鬼に駆け寄っていく。


「おじちゃん! ミグが急に倒れた! 消影病かも」

「なに?」


 後ろには子供の鬼を背負った、少年の鬼がいる。

 大人の鬼は背負われている鬼をジッと見る。


「んー。まあ、一応診てもらったよさそうだな」

「お姉ちゃん、どこにいるの?」

「クゼン地区の端だ」

「ありがと。兄ちゃん、行こ」

「おう」


 子供の鬼についていく。

 10分ほど歩き、長屋のような建物の前で子供の鬼が立ち止まる。


「ここだよ」

「ありがとな。お前も、もう起きていいぞ」


 そう言うと、『オレ』に背負われていた子供の鬼が目を開けて、背中から降りた。


「へへーん。どう? 俺の演技」

「よかったぞ。アカデミー賞ものだ」

「あかでみぃ?」

「いや、こっちの話だ」

「ねえ、それよりも約束のアレちょうだい!」


 案内してくれた方の子供の鬼がオレの腕を掴んで揺すってくる。


「おお。そうだったな。ほら」


 オレは街で買った、クッキーのようなお菓子を出して二人に渡す。


「いえーい!」

「あっちで食おうぜ」


 お菓子を受け取った子供の鬼たちは走って行ってしまった。


 よし。作戦成功。


 オレの立てた作戦はこうだ。

 まず、街で『変装用の道具』を買う。

 カツラのようなものと染料と接着剤。

 これを使って、鬼に化けた。

 染料で体を赤く塗り、木を彫って角のようなものを作り、額に貼る。

 あとはカツラを被って完成だ。


 これが意外とクォリティが高く出来た。

 結姫は特殊メイクの才能があるのかもしれない。


 そして、街で買い込んだ、子供が好きそうなお菓子や食べ物で子供の鬼を釣る。

 大人の鬼に対しての交渉の材料を用意するのは難しかったが、子供なら敷居は低いだろう。


 ここは賭けだったが上手くいった。


 なんとか他の鬼にバレずにあの人がいる場所を見つけることができた。


 木造の建物だ。

 慎重にドアを開けて、中に入る。


 目の前には真っすぐ廊下が広がっていて、壁にはドアが並んでいた。

 それぞれの病室へのドアなんだろう。


 そして案の定、廊下には窓がない。

 他の建物にも、見る限り窓はなかった。

 地下に住んでいることもあり、日の光を浴びること自体、不要な生物なのかもしれない。

 これなら部屋の中にも窓はないだろう。


 よし。予想通りの作りだ。

 とはいえ、鬼に見つかる前にさっさとあの人を見つけられるに越したことはない。


 オレはとりあえず、近くのドアを開く。

 中を見ると、何人かの鬼がベッドに横になっていた。


「外れか」


 部屋の中にはあの人はいなかった。


「じゃあ、次は……ここだ!」


 適当なドアを開いて中を見る。


 いない。


「ここだ!」


 ドアを開く。


 いない。


「んー! ここか!?」


 ドアを開く。


 いない。


 やべえ。ちょっと楽しくなってきた。

 なんかアレみたいだ。

 えっと、そう、黒ひげ危機一髪だっけ?


「ふはははは! ここだな?」


 ドアを開くがいない。


 ぬぬぬ。そろそろだ。

 そろそろちゃんと当ててみせる!


 オレが次のドアノブに手をかけたときだった。


 ガチャリと隣の部屋のドアが開いた。

 中から出てきたのは、あの人だった。


「……」

「あら?」


 あの人はがっくりと肩を落としたオレに気づき、声をかけてくる。


「どうしました? 具合悪いんですか?」

「いや、ちょっと悔しいというか悲しいというか……」

「はあ……」


 何を言っているのかわからないと言った感じで、首をかしげている。


 おっと、いかんいかん。

 ここは見つかったことに喜ぶところだろ。


 オレはカツラを取り、ゴシゴシと顔を手でこすり、染料を落とす。

 そんなオレの様子を見て、目を丸くしている。


「あ、あなたは昨日の?」

「異世界秩序機構のエージェントだ。あんたを元の世界に戻しに来た」

「え? あの……」

「話は戻ってからするから、今はとりあえず、オレに黙ってついてきてくれ」


 未だに戸惑っている彼女の手を掴み、奥の部屋へと進む。

 適当な空き部屋があるといいんだが。


 何度かドアを開けて、空き部屋を見つける。

 さっと、部屋に入った。


「えっと、あの……」

「大丈夫。すぐに戻れる」

「それは困るな」


 帰るための準備をしていると、ドアが開く。

 そして、ぞろぞろと鬼たちが部屋に入ってきたのだった。

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