王都から少し離れた平原。
そろそろオレが出した手紙を受け取って、慌ててやってくる頃だろう。
「儂は国王なんだが?」
「知ってる。だからこうしてる」
オレの横には鎖で体を縛られた状態で立っている国王。
縛った鎖には錠が付いていて、オレが持っている鍵がないと開かないようになっている。
「本当に来ると思うか?」
国王の後ろにはメイシスが立っている。
本当はオレ一人で交渉するつもりだったが、メイシスが「ついていく」と言ってくれたのだ。
本人は「元々俺たちの問題だからな」と言っていたが、オレのことを心配してくれているのがなんとなくわかった。
だからその言葉に甘えてついてきてもらった。
「来るさ。慌ててな」
「だが、やはりもう少し部下も連れてきておいた方がよかったと思うが?」
「交渉するとき、あまり大人数だと返ってこじれるもんさ」
「なるほど。では、今回の交渉はこじれるというわけだな」
「へ?」
メイシスが指さす方を見ると、馬に跨った白髪の初老の男がやってくる。
聞いていた容姿と服装から、その男が大臣だとわかる。
そして、その後ろには大勢の兵たちを引き連れていた。
どういうことだ?
手紙には大臣と護衛の2人で来るように書いたのに。
兵たちを引き連れた大臣はオレから5メートルほど離れたところで止まり、兵たちにも止まるように合図する。
「大臣! 助けてくれ!」
国王の言葉に、大臣は冷たい目を向けるだけで言葉を発しない。
「おいおい。あんた、文字が読めなかったのか? 国王の命がかかっていることを忘れるなよ」
「……」
オレの言葉にも返答をせずに、後ろの兵たちに合図を送る。
すると兵士たちがオレたちを取り囲むようにして配備された。
「言っておくが、鍵は隠してある。無理やり国王を取り返しても錠は外れないぜ?」
さらにオレの言葉を無視して、兵士たちに合図を送る。
するとジリジリと兵士たちが迫ってくる。
「ちょちょちょ! おい! マジで国王をぶっ殺すぞ!」
「大臣! なにしてる! 儂が殺されてしまう!」
「好都合です」
ようやく口にした大臣の言葉は冷たく淡々としていた。
「……どういうことだ?」
「国王は――いや、そいつは血統がいいだけのただのクズだ」
「それは同意だ」
「儂は国王なんだが!?」
「金儲けだけに走り、民を苦しめている。そのクズは国にとって害にしかならない」
なるほど。
イジメの疑惑は的外れというわけではなかったか。
「それでこれを機に、死んだことにするのか」
「そういうことだ」
「だ、大臣……」
「私は何度も進言したぞ。もっと民を見ろ、と」
「……」
ぐうの音も出ない国王。
やりとりを見る限り、おそらく大臣は国王の教育係とかだったのだろう。
こういう場合は、王への忠誠心が高く、王の肩を持つことが多いのだが。
この大臣は王個人よりも国への忠誠が高いのだろう。
立派な志だが、教育失敗したのはお前の責任だろ、と言いたい。
王はクズだが、簡単に切り捨てようとするのは……いや、待てよ。
まさか。
「あんた、国王を暗殺しようとしてたな?」
「なにっ!? だ、大臣、本当か?」
大臣はその問いに答えるかのように笑みを浮かべる。
警備の薄い城。
国王の部屋は無防備。
なにより、不審者が城に侵入したのなら、真っ先に国王の警護を固めるはずだ。
「どうする?」
ジリジリと迫る兵士たちをけん制するメイシス。
ヤバい。
完全に想定外だ。
おそらく投稿も意味はない。
国王が殺されたとするなら、犯人の首は必ず必要だ。
犯人を捕まえたことを功績に、大臣は玉座に座るのだろう。
かといって、多勢に無勢どころじゃない。
これじゃまるでリンチだ。
考えろ。
何か逆転の手があるはず。
諦めるのは死んでからでも遅くない。
「一点突破を狙う。オレについてきてくれ」
「わかった。が、俺がついていけなくても見捨てて進め」
「……」
そうならないようにオレが先陣を切るつもりだったんだけどな。
メイシスは殿(しんがり)としてオレが逃げ切る時間を稼ぐ気か。
あー、もう。
メイシスを死なせるわけにはいかねえ。
オレが包囲網にデカい風穴開ければいいだけだ。
「よし、行くぞ」
「ああ」
その場でステップを踏み、一気に兵士に向かって行く――瞬間だった。
「お待ちください!」
やけに通る声。
どこかで聞いたことのある声だ。
「なんだ、フレドリック?」
あ、フレっち。
そうか、これだけの兵を引き連れているんだから、騎士団長のフレっちも来ていておかしくない。
「この者の処刑は私に任せていただきたいです」
「……」
「私はこの者に、城で遅れをとりました。どうか雪辱のチャンスを」
「まあ、よい」
大臣が合図をすると兵士たちがオレたちから離れていく。
「さあ、いざ、勝負!」
フレっちが前に出てオレを指差す。
「メイシス。なるべく派手に戦って、みんなの注目を集める。隙を見てあんたは包囲網から抜けてくれ」
「そんなこと、できるわけがないだろう」
「別にあんたを助けるために犠牲になろうってわけじゃない。あんたはすぐに部下を連れて戻ってきてほしい」
「……わかった」
かなり部の悪い賭けだが、今はこれが最善の策だ。
この策に賭けるしかない。
「どうした! 怖気づいたのか!?」
「じゃあ、頼んだぜ」
メイシスに耳打ちして、オレはフレっちに対峙する。
まさか再戦になるとはな。
てか、最近、再戦ばっかだな。
「今度は油断せん!」
フレっちが居合いの構えを取る。
「あんたも律儀だな」
こうしてオレとフレっちのリターンマッチが始まるのだった。