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第40話 まさかの再戦

 王都から少し離れた平原。

 そろそろオレが出した手紙を受け取って、慌ててやってくる頃だろう。


「儂は国王なんだが?」

「知ってる。だからこうしてる」


 オレの横には鎖で体を縛られた状態で立っている国王。

 縛った鎖には錠が付いていて、オレが持っている鍵がないと開かないようになっている。


「本当に来ると思うか?」


 国王の後ろにはメイシスが立っている。

 本当はオレ一人で交渉するつもりだったが、メイシスが「ついていく」と言ってくれたのだ。

 本人は「元々俺たちの問題だからな」と言っていたが、オレのことを心配してくれているのがなんとなくわかった。

 だからその言葉に甘えてついてきてもらった。


「来るさ。慌ててな」

「だが、やはりもう少し部下も連れてきておいた方がよかったと思うが?」

「交渉するとき、あまり大人数だと返ってこじれるもんさ」

「なるほど。では、今回の交渉はこじれるというわけだな」

「へ?」


 メイシスが指さす方を見ると、馬に跨った白髪の初老の男がやってくる。

 聞いていた容姿と服装から、その男が大臣だとわかる。

 そして、その後ろには大勢の兵たちを引き連れていた。


 どういうことだ?

 手紙には大臣と護衛の2人で来るように書いたのに。


 兵たちを引き連れた大臣はオレから5メートルほど離れたところで止まり、兵たちにも止まるように合図する。


「大臣! 助けてくれ!」


 国王の言葉に、大臣は冷たい目を向けるだけで言葉を発しない。


「おいおい。あんた、文字が読めなかったのか? 国王の命がかかっていることを忘れるなよ」

「……」


 オレの言葉にも返答をせずに、後ろの兵たちに合図を送る。

 すると兵士たちがオレたちを取り囲むようにして配備された。


「言っておくが、鍵は隠してある。無理やり国王を取り返しても錠は外れないぜ?」


 さらにオレの言葉を無視して、兵士たちに合図を送る。

 するとジリジリと兵士たちが迫ってくる。


「ちょちょちょ! おい! マジで国王をぶっ殺すぞ!」

「大臣! なにしてる! 儂が殺されてしまう!」

「好都合です」


 ようやく口にした大臣の言葉は冷たく淡々としていた。


「……どういうことだ?」

「国王は――いや、そいつは血統がいいだけのただのクズだ」

「それは同意だ」

「儂は国王なんだが!?」

「金儲けだけに走り、民を苦しめている。そのクズは国にとって害にしかならない」


 なるほど。

 イジメの疑惑は的外れというわけではなかったか。


「それでこれを機に、死んだことにするのか」

「そういうことだ」

「だ、大臣……」

「私は何度も進言したぞ。もっと民を見ろ、と」

「……」


 ぐうの音も出ない国王。

 やりとりを見る限り、おそらく大臣は国王の教育係とかだったのだろう。

 こういう場合は、王への忠誠心が高く、王の肩を持つことが多いのだが。

 この大臣は王個人よりも国への忠誠が高いのだろう。


 立派な志だが、教育失敗したのはお前の責任だろ、と言いたい。

 王はクズだが、簡単に切り捨てようとするのは……いや、待てよ。


 まさか。


「あんた、国王を暗殺しようとしてたな?」

「なにっ!? だ、大臣、本当か?」


 大臣はその問いに答えるかのように笑みを浮かべる。


 警備の薄い城。

 国王の部屋は無防備。

 なにより、不審者が城に侵入したのなら、真っ先に国王の警護を固めるはずだ。


「どうする?」


 ジリジリと迫る兵士たちをけん制するメイシス。


 ヤバい。

 完全に想定外だ。

 おそらく投稿も意味はない。


 国王が殺されたとするなら、犯人の首は必ず必要だ。

 犯人を捕まえたことを功績に、大臣は玉座に座るのだろう。


 かといって、多勢に無勢どころじゃない。

 これじゃまるでリンチだ。


 考えろ。

 何か逆転の手があるはず。


 諦めるのは死んでからでも遅くない。


「一点突破を狙う。オレについてきてくれ」

「わかった。が、俺がついていけなくても見捨てて進め」

「……」


 そうならないようにオレが先陣を切るつもりだったんだけどな。

 メイシスは殿(しんがり)としてオレが逃げ切る時間を稼ぐ気か。


 あー、もう。

 メイシスを死なせるわけにはいかねえ。

 オレが包囲網にデカい風穴開ければいいだけだ。


「よし、行くぞ」

「ああ」


 その場でステップを踏み、一気に兵士に向かって行く――瞬間だった。


「お待ちください!」


 やけに通る声。

 どこかで聞いたことのある声だ。


「なんだ、フレドリック?」


 あ、フレっち。

 そうか、これだけの兵を引き連れているんだから、騎士団長のフレっちも来ていておかしくない。


「この者の処刑は私に任せていただきたいです」

「……」

「私はこの者に、城で遅れをとりました。どうか雪辱のチャンスを」

「まあ、よい」


 大臣が合図をすると兵士たちがオレたちから離れていく。


「さあ、いざ、勝負!」


 フレっちが前に出てオレを指差す。


「メイシス。なるべく派手に戦って、みんなの注目を集める。隙を見てあんたは包囲網から抜けてくれ」

「そんなこと、できるわけがないだろう」

「別にあんたを助けるために犠牲になろうってわけじゃない。あんたはすぐに部下を連れて戻ってきてほしい」

「……わかった」


 かなり部の悪い賭けだが、今はこれが最善の策だ。

 この策に賭けるしかない。


「どうした! 怖気づいたのか!?」

「じゃあ、頼んだぜ」


 メイシスに耳打ちして、オレはフレっちに対峙する。


 まさか再戦になるとはな。

 てか、最近、再戦ばっかだな。


「今度は油断せん!」


 フレっちが居合いの構えを取る。


「あんたも律儀だな」


 こうしてオレとフレっちのリターンマッチが始まるのだった。

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