目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第41話 フレっちのスキル

 フレっちとの再戦。

 大抵、再戦の場合はお互い、相手の手の内をある程度はわかっている状態で戦うことになる。

 だが、オレは前回、不意打ちが勝ったから、まるでフレっちの手の内がわからない。

 逆にフレっちの方はオレの動きや戦い方はある程度わかっているはず。


 圧倒的に不利だな。


 当たり前だが、スキルの有無は戦力に大きな差が出る。

 1対1なら尚更だ。


 いつもオレが任務で異世界の勇者たちと互角以上に戦えるのは、相手の情報をある程度知った上で対策を練っているからだ。

 最低でも、どんなスキルを持っているのかを調べて、対策を練った上で戦っている。

 後は結姫がいるというのもかなりアドバンテージだ。


 結姫のスキルは威力がある上に汎用性がある。

 マジでそのうち、エージェント狩りのエグゼキュタにスカウトされるんじゃないだろうか。

 パートナーだという贔屓目なしでもそう思う。


 最悪なことに今回はどっちもない状態で戦わなければならない。

 せめてフレっちのスキルが何なのかわかれば、まだ戦いようがあるんだけどな。


 スキルでゴリ押しされても、スキルを隠し玉として隠されるのも、スキルがないオレにとってはほぼ詰みだ。


 さてと、どうすっかな。

 メイシスにああ言った手前、互角以上の戦いをしないと格好がつかない。

 とりあえず、不意を突くのは無理だから、まずは相手に手を出させて様子を見るか。


 少しずつ間合いを詰める。

 フレっちの間合いに入れば、すぐに何かしら攻撃してくるはず。


「……」

「……」


 まだ動かない。


 居合いと相性が良さそうなスキルなら、斬撃を飛ばしてくることも想定してたんだがな。

 それならとっくに撃ってきても良さそうだが。


 ジリジリと間合いを詰める。

 完全に剣での間合いに入っているが、まだフレっちは動かない。


 さらに半歩前に進むと、フレっちの方が下がった。


 なんだ?

 懐に入られるのを嫌がったのか?

 いや、飛び込む気ならもうとっくに踏み込める間合いだ。

 それはフレっちも前回のオレとの戦いでわかっているはず。


 スキルを使わないにしても、抜刀をせずに下がる意味がわからない。


 さらに間合いをつめると、その分下がっていく。


 ……そうか! わかったぞ!


 フレっちのスキルがなんであるかが、オレにわからないのと同じように、フレっちもオレのスキルがわからないのだ。

 つまりはオレが『スキルがない』ことを知らない。


 この世界では誰でもスキルを持っている。

 逆に言うとスキルを持ってないやつはいない。


 前回、オレに負けているフレっちには後がない。

 慎重にならざるを得ないというわけだ。

 オレと同じく、まずは相手のスキルを出させようという作戦か。


 悪いが、それを逆手に取らせてもらう。

 嘘(ブラフ)はオレの十八番(オハコ)だ。


 オレは一気にフレっちとの間合いを詰める。

 同時にフレっちは横に飛んで距離を取った。

 さらにオレはフレっちを追う。


「くっ!」


 フレっちが剣を抜く動作をする。

 だが、そこでオレはフレっちに向かってフックを放つ。


 もちろん、当たる距離ではない。

 だが、フレっちは剣を抜く動作を止め、躱す動きをする。


 拳撃を飛ばすスキルかもしれないと思ったのだろう。

 その動きは正しい。

 警戒を怠って、スキルを食らって致命傷なんて話にならない。


 これで完全に主導権を握った。


 オレは間を置かず、フェイントを入れながらフレっちに迫る。


「ちっ!」


 オレの攻撃を避けることに精一杯のようだ。


 ここで決める!


 フェイントを組み合わせながら間合いを詰め、射程圏内に入った。


 左フックを繰り出そうと拳を固める。

 それを見てフレっちは身を屈めた。


 だが、これはフェイントで、オレは右膝蹴りをフレっちの顎を目掛けて放つ。


「うぐっ!」


 とらえた。

 オレの膝蹴りはフレっちの顎にヒットした。

 だが、フレっちは歯を食いしばって耐える。


 まずった。


 これで決めようとしたせいで、重心を右膝に向け過ぎた。


「うおおおおおおお!」


 フレっちはその隙を見逃さなかった。

 気合の雄叫びを上げながら、素早く剣の柄を握って抜刀。


 ヤバい。

 下がれば致命傷になる。


 歯を食いしばり、さらに一歩踏み込む。


「なにっ!?」


 まさか前に出てくるとは思ってなかったんだろう。

 フレっちは驚きの声をあげる。


 抜刀した剣の根元が脇腹に直撃した。


「ぐはっ!」


 体を真っ二つにされるのは回避できたが、衝撃はモロに食らうことになる。


 そのまま横に飛ばされ、転がるはめになった。

 すぐに立ち上がり、構える。


 フレっちからの追撃はない。


 だが、脇腹がズキズキと痛む。

 折れてはいないだろうが、動きに支障が出るほどの痛みが走る。


 今ので決められなかったのは痛恨だな。


 さらに――。


「相手の出方を見ようなんて、僕らしくなかったな」


 フレっちはそう言うと、剣から炎を噴き出したのだった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?