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第42話 勝ちは勝ちってことで


「全力で貴様を叩き潰す」


 炎の剣。

 それがフレっちのスキルなんだろう。


 それにしても炎か。

 それを剣に纏わせて威力を上げているというところか。


 ふむ。


「格好いいな」


 思わず口に出してしまった。

 だって、魔法剣ってやつだろ?

 熱いじゃん。


「そ、そうか?」


 凄く嬉しそうなフレっち。

 こっちの世界じゃ、あまり好まれてないんだろうか。


 それにしてもオレ、いつの間にこんなに厨二っぽくなっちまったんだろ?

 中学の時はくだらないと思ってたような気がする。


 たぶん、穂佳の影響だろう。

 知らないうちに侵食されていたのかもしれない。

 恐るべし厨二病。


「オレはいいと思うぜ。伝説の剣みたいでさ」

「ふっふっふ。わかってるじゃないか! そうなんだよ! この剣のモチーフは……」

「フレドリック」


 フレっちとの厨二談議が始まりそうな空気を、一気に凍らせるほどの冷たく凛とした声。

 険しい顔をした大臣が、フレっちを見ている。


「……も、申し訳ありません」


 フレっちは小さく咳ばらいをして、再び剣を鞘に納めて居合いの構えを取る。


「違う場所で会えたら、親友になれたかもな」


 そう言って、フッと笑うフレっち。


 うーん。厨二病。

 嫌いじゃないぜ。


「かもな」


 オレも構える。


 けど、できれば話をしながら少しでも時間を稼ぎたかったな。

 脇腹の痛みが酷くなっていく。

 あと、1撃か2撃が限界だ。

 てか、そもそもフレっちの攻撃を躱し続けられる気がしない。


「はあっ!」


 フレっちが間合いの外から抜刀する。

 思った通り、炎を纏った斬撃が飛んできた。


「うおっ!」


 しゃがみこんで斬撃をやり過ごす。

 だが、通過していく炎でチリチリと肌が焼かれる。


 思った以上に厄介だな。


 遠距離から飛んでくるのも厄介だが、それ以上に範囲がデカいのがキツイ。

 ギリギリで躱して反撃に転じることができない。

 完全に躱さないと火ダルマだ。


「今のを躱すか……。だが、これはどうだ!?」


 次々と斬撃を繰り出してくるフレっち。


 速い。


 飛んでくる斬撃もそうだが、納刀して抜刀までの動作が恐ろしく速い。

 斬撃が幾層にもなって襲い掛かってくる。

 まるで炎の弾幕だ。


「うおおおおおお!」


 脇腹が痛いなんて言ってられない。

 直撃すれば終わる。


 全力で走り、飛んでくる斬撃を躱していく。

 それでも、ジリジリと肌を焼かれる。

 まさしくジリ貧。


 なんて冗談を言ってる場合じゃないな。


 長引けば長引くほどドンドンと不利になっていく。

 こうなったら玉砕覚悟で突っ込むしかない。


 だが決して諦めてやけっぱちになったわけじゃない。

 これが最善の策だと思ったから、全力でそれに賭ける。


 諦めるのは死んでからでも遅くない。


「はああああああ!」


 さっきよりもギリギリで斬撃を避けながら、フレっちの方へと向かう。


「玉砕覚悟か。だが、させん!」


 さらに斬撃が加速していく。


 ダメだ。

 このままじゃ辿り着く前に直撃を食らう。

 なんとか隙を作らねーと。


 とはいえ、隙を作るための隙がねえ。


 そのときだった。


「ぐあっ!」

「うわ! なんだ!」


 横で騒ぎが起き始める。

 メイシスが包囲網を破ろうとして、兵士たちに襲い掛かっていた。


 その場にいた全員が、オレたちの戦いに集中していたんだろう。

 メイシスの突然の動きに、その場の全員の意識が移る。

 当然、フレっちも。


「……」


 メイシスの方をジッと見ている。

 そしてオレへの攻撃も止む。


 チャンス!


「うおおおおおおお!」

「し、しまった!」


 フレっちがこっちに気が付くが遅い。

 すでに懐まで飛び込んでいる。

 渾身の右ストレートをフレっちの顔面に叩き込む。


「ぐはっ!」


 仰向けに倒れるフレっち。


 今度はギリギリの勝利。


 にしても、また不意打ちでの勝利だな。

 まあ、勝ったんだから良しとするか。

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