「全力で貴様を叩き潰す」
炎の剣。
それがフレっちのスキルなんだろう。
それにしても炎か。
それを剣に纏わせて威力を上げているというところか。
ふむ。
「格好いいな」
思わず口に出してしまった。
だって、魔法剣ってやつだろ?
熱いじゃん。
「そ、そうか?」
凄く嬉しそうなフレっち。
こっちの世界じゃ、あまり好まれてないんだろうか。
それにしてもオレ、いつの間にこんなに厨二っぽくなっちまったんだろ?
中学の時はくだらないと思ってたような気がする。
たぶん、穂佳の影響だろう。
知らないうちに侵食されていたのかもしれない。
恐るべし厨二病。
「オレはいいと思うぜ。伝説の剣みたいでさ」
「ふっふっふ。わかってるじゃないか! そうなんだよ! この剣のモチーフは……」
「フレドリック」
フレっちとの厨二談議が始まりそうな空気を、一気に凍らせるほどの冷たく凛とした声。
険しい顔をした大臣が、フレっちを見ている。
「……も、申し訳ありません」
フレっちは小さく咳ばらいをして、再び剣を鞘に納めて居合いの構えを取る。
「違う場所で会えたら、親友になれたかもな」
そう言って、フッと笑うフレっち。
うーん。厨二病。
嫌いじゃないぜ。
「かもな」
オレも構える。
けど、できれば話をしながら少しでも時間を稼ぎたかったな。
脇腹の痛みが酷くなっていく。
あと、1撃か2撃が限界だ。
てか、そもそもフレっちの攻撃を躱し続けられる気がしない。
「はあっ!」
フレっちが間合いの外から抜刀する。
思った通り、炎を纏った斬撃が飛んできた。
「うおっ!」
しゃがみこんで斬撃をやり過ごす。
だが、通過していく炎でチリチリと肌が焼かれる。
思った以上に厄介だな。
遠距離から飛んでくるのも厄介だが、それ以上に範囲がデカいのがキツイ。
ギリギリで躱して反撃に転じることができない。
完全に躱さないと火ダルマだ。
「今のを躱すか……。だが、これはどうだ!?」
次々と斬撃を繰り出してくるフレっち。
速い。
飛んでくる斬撃もそうだが、納刀して抜刀までの動作が恐ろしく速い。
斬撃が幾層にもなって襲い掛かってくる。
まるで炎の弾幕だ。
「うおおおおおお!」
脇腹が痛いなんて言ってられない。
直撃すれば終わる。
全力で走り、飛んでくる斬撃を躱していく。
それでも、ジリジリと肌を焼かれる。
まさしくジリ貧。
なんて冗談を言ってる場合じゃないな。
長引けば長引くほどドンドンと不利になっていく。
こうなったら玉砕覚悟で突っ込むしかない。
だが決して諦めてやけっぱちになったわけじゃない。
これが最善の策だと思ったから、全力でそれに賭ける。
諦めるのは死んでからでも遅くない。
「はああああああ!」
さっきよりもギリギリで斬撃を避けながら、フレっちの方へと向かう。
「玉砕覚悟か。だが、させん!」
さらに斬撃が加速していく。
ダメだ。
このままじゃ辿り着く前に直撃を食らう。
なんとか隙を作らねーと。
とはいえ、隙を作るための隙がねえ。
そのときだった。
「ぐあっ!」
「うわ! なんだ!」
横で騒ぎが起き始める。
メイシスが包囲網を破ろうとして、兵士たちに襲い掛かっていた。
その場にいた全員が、オレたちの戦いに集中していたんだろう。
メイシスの突然の動きに、その場の全員の意識が移る。
当然、フレっちも。
「……」
メイシスの方をジッと見ている。
そしてオレへの攻撃も止む。
チャンス!
「うおおおおおおお!」
「し、しまった!」
フレっちがこっちに気が付くが遅い。
すでに懐まで飛び込んでいる。
渾身の右ストレートをフレっちの顔面に叩き込む。
「ぐはっ!」
仰向けに倒れるフレっち。
今度はギリギリの勝利。
にしても、また不意打ちでの勝利だな。
まあ、勝ったんだから良しとするか。