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第43話 相変わらずのピンチ

 勝った。

 その安堵感と達成感で緊張が解けてしまう。

 すると一気に疲れと痛みが襲い掛かってきた。


「ふう」


 その場に尻もちをつく。

 重力が倍になったくらい、体が重い。

 寝転がりたいが、寝転がればもう立てなくなる。

 なんとか座った状態を維持する。


「……再戦を申し出て破れるとは、恥の上塗りだな」


 冷ややかな声が聞こえる。

 その声でオレは血の気が引いた。


 ヤバぇ。

 フレっちに勝ったからって、終わりじゃなかった。

 っていうより、返って状況は悪化したんじゃ……。


「もういい。こいつらを始末しろ」


 大臣が兵士たちに合図を送る。

 すると遠巻きに囲んでいた兵士たちがゆっくりと迫ってきた。


 ……ですよね。


 大臣は元々そうするつもりだったし。

 圧倒的な戦力差があったからこそ、大臣も余興として決闘をゆるしんたんだろう。


 見ると、メイシスの方も大勢の兵士に囲まれている。

 助けにいきたいが、体が動かない。

 立ち上がるのがやっとだ。

 逆にメイシスのところに駆けつけたら、足手纏いになりかねない。


「まいったな」


 メイシスはオレが不利なのを見て、フレっちの気を逸らすために敢えて騒ぎを起こした。

 そのせいで、自分が逃げ遅れてしまった。

 本当にお人よしだな。

 その好意を無駄にはしたくないが、かなり絶望的な状況だ。


 さて、どうすっかな。

 万策尽きた。

 こういうときにするのは――時間稼ぎだ!


 とにかく策を考える時間を作る。


「ふっふっふ。いいのか、大臣。兵士をそんなに不用意に近づけてよぉ?」

「なに?」


 大臣が眉を顰める。


「大体、オレの方が決闘を受けるメリットなんてない。それを敢えて受けたのはなんでだと思う?」


 メイシスを逃がすためだったんだけどね。


 大臣は合図を送り、兵士たちの進行を止めた。


「決闘を見てただろ? オレはまだスキルを使っていない」

「……」

「けどよぉ。オレのスキルはちとアクが強くて、発動の条件が面倒くさいんだ」

「決闘をしている間にその条件を達成したと?」

「どうだろうねぇ。ま、あんたが考えて判断してくれ」

「ふむ……」


 大臣が再び合図を送ると、兵士たちが進み始めた。


「ちょ、ちょ、ちょい待った! いいの? 全滅するぜ? 逃げるなら今のうちだぞ!」

「ふん。下手な嘘は止めるんだな」

「なんだと?」

「スキルの発動条件が整ったのなら、最初に兵士たちが近づいたときに発動させればいい」

「っ!」


 ちぃ、バレたか。

 まあ、そりゃそうだよな。

 わざわざ敵に忠告する方がおかしい。

 圧倒的不利な状態なら尚更だ。


「仮に本当だったとしても、兵を半分失うだけだ。半分も残れば貴様ら2人を殺すのにお釣りがくる」


 くそ、頭のいい奴だ。

 考え方は腐れ外道だが。


 ハッタリで時間稼ぎも失敗。

 国王を人質に取っても無意味だ。

 というか、大臣が国王を殺したがっているんだから、喜んで攻めてくるだろう。


 考えろ。

 諦めるな。

 諦めるのは死んでからでも遅くない。


「チェックメイト」


 そのとき、小さくもよく通る綺麗な声が聞こえた。

 聞き慣れた声。

 オレのパートナー。


「結姫!」

「時間稼ぎ、ご苦労様」


 大臣が乗る馬の後ろに座り、喉元にナイフを突きつけている結姫。


「くっ……仲間がいたのか」

「当然」


 本当は残っているように言ったんだけどな。

 心配で来てくれてたってところか。


「その男が決闘を受けたのも、ハッタリを言ったのも……」

「あなたの油断を誘うため」

「へっ! そうだぜ! これも策ってわけだ! 見事にハマっちまったなぁ。がはははは」

「……」


 すみません。

 調子こきました。

 そんな冷たい目で見ないでください。


「兵を引かせる? 死ぬ?」


 結姫が大臣の喉元に突き付けたナイフを強く押し付ける。

 ツツーっと血が垂れる。


「降伏だ」


 大臣が合図を送ると兵士たちは止まり、武器を手放す。

 同時に、どこに潜んでいたのか鬼たちがワラワラと出てくる。

 そして兵士たちを縛り上げていく。

 大臣も馬から降ろされ、ロープで縛られる。


「大丈夫?」


 呆然としているオレのところに来て、結姫が声をかけてくる。


 もうなんていうか、尊い。

 まるで女神だ。


「愛してるぜ、結姫!」

「死ぬ?」


 大臣と同じこと言われた。


 え? なに?

 オレって敵のラスボスと同じってこと?


 けど、そんないつもの結姫を見ると安心する。

 ……オレってドМなんだろうか。


「乃々華さんに診てもらって」


 そう言ってオレに背を向け歩き出す結姫。

 横髪を耳にかける。

 その耳が、なぜかいつもより赤く見えたのだった。

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