あの後、すぐに縛り上げた大臣を連れて城に行き、宝物庫のドアを開けさせた。
乃々華が宝物庫の中からお目当ての薬を探し出す。
だが、そのとき隣にある、薬品の入った瓶を見て、乃々華が顔をしかめた。
「亜人のみんながかかった病気……作り出したものだったんですね?」
「……」
乃々華の指摘に無表情で何も言わない大臣。
「だ、大臣、どういうことだ?」
「……」
国王の問いかけにも無視を決め込んでいる。
ちなみに国王も縛ったままだ。
そんな姿で凄んだところで、シュールにしか見えない。
元々、威厳もないから凄みもなにもないのだが。
「ちょっと待ってください……。これは!」
思ったことがあるのか、宝物庫の戸棚を見て回る乃々華。
「住民の皆さんの伝染病も、作り出されたものだったんですね」
「どういうことだ?」
どうせ大臣に聞いても答えないだろうから、乃々華の方に聞く。
「ここには伝染病の原因となるウイルスと、それに効く特効薬が置いてあります」
「つまり、国が伝染病を流行らせて、それを治すために高額の医療費を取ってたってことか?」
「はい。そうなります」
ビックリするほど、ゲス野郎だ。
こいつは国王に「国民のため」なんて言っておきながら、その裏では国民から金を搾り取っていた。
自己顕示欲にまみれている。
こりゃ、忠誠心もクソもなかったわけだ。
「そ、そんな馬鹿な……」
愕然とするフレっち。
もちろん、フレっちも縛った状態だ。
「大臣! どういうことだと、聞いている! 答えろ! 儂は国王なんだが!?」
「ふん。貴様の好きな金を儲けてやったんだ。感謝してほしいくらいだがな」
「ぐぬぬぬぬ」
オレたちは国王、大臣、フレっちをその場に放っておき、欲しい薬だけ持って鬼の住処へと帰った。
「いいの? 放っておいて」
帰る途中のダンジョン内で結姫がそう問いかけてくる。
「ああ。あの国の問題は、あの国の人が解決するべきだろ」
「意外」
正直、あの大臣がやってたことは許せない。
5発ぐらいぶん殴って、国民の元に晒したいくらいだ。
けど、そもそもオレはあの国のやつら自体、嫌いだった。
なぜなら、乃々華を危険なダンジョンに送り込まれたことを知りながら、放っておいたから。
自分たちの恩人をあっさりと見捨てたやつら。
国のトップが腐れば、国民も腐っていくんだろうか。
「ま、フレっちあたりに期待かな。それなりに地位があるし、何とかするんじゃねーの」
知らねーけど。
「恵介くんがそれでいいなら」
結姫はそれ以降はこの件に関しては何も言わなかった。
鬼の住処へ帰ると、乃々華は1時間ほど部屋にこもると、すぐに薬を作り出した。
「これでもう大丈夫です」
「乃々華、感謝する」
乃々華から薬を受け取り、深々と頭を下げるメイシス。
すぐに薬を持って、鬼たちの元へ走っていった。
「それにしてもスゲーな。こんなにあっさりと薬を作るなんて。こんなの今の地球でもできないんじゃねーの?」
「そういうスキルですから」
乃々華がはにかむ。
なるほど。
いくら知識があったとしても、いきなり異世界で医療行為ができるわけがない。
この世界は地球よりも科学は発達してないようだから機材だって揃ってなかったはずだ。
それに鬼たちの病気が鬼にしかかからないことや、宝物庫で薬品を見ただけで真相に辿り着いたのも、スキルの力と考えれば納得できる。
患者の全員に薬が投与され、症状は落ち着いた。
鬼たちが喜ぶ中、オレは乃々華に声をかけ、別室に行く。
「そろそろ帰る時間だ。鬼たちに挨拶するならしておいてくれ」
「そのことなんですが……」
乃々華は一瞬、俯いた後に顔を上げた。
その表情からは決意が固まったという意思を感じる。
「私、残ろうと思います」
「残る? なんで? もう心残りはないはずだろ?」
「ここには私の居場所があるんです」
乃々華の目に、少しだけ悲しみの色が混じる。
「あっちの世界じゃ、私、ただのコマでした。患者を事務的に処置していくだけ。どれだけの人数をこなすだけが求められていました」
確か乃々華は研修医をしてるって言っていた。
給料が安いのをいいことにこき使っていたんだろう。
「お前の代わりなんていくらでもいる。そう言われ続けていました」
「……」
「でも、この世界では私自身が望まれているんです。この世界なら、私の知識と力が生かせると思うんです」
「……後悔はねーんだな?」
「はい!」
その言葉を聞いて安心した。
「じゃあ、結姫、帰ろうぜ」
「ええ」
結姫が機械を出して帰りの準備を始める。
「あ、待ってください! みんなを呼んできます」
「いや、いいんだ。別に大したことしてねーし」
「そんなことありません」
「湿っぽくなるのは嫌いなんだ。メイシスによろしく言っておいてくれ」
「……ありがとうございました」
深々と頭を下げる乃々華。
「それじゃな、元気――」
言葉の途中で結姫が機械を操作して、元の世界へと転送されたのだった。
いや、空気読んでくれよ。