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幕間 結姫とデート?

第45話 なんでここにいる!?

 任務を終わらせた次の日、オレは支部長に呼び出された。

 今回の任務の反省会ってやつだ。

 ちなみに結姫は、この反省会には参加しない。

 支部長が言うには、結姫は強いスキルを持っているし行動も問題ないとのことだ。


 確かにオレもそう思う。

 思うけど、なんか釈然としないな。


 それにオレ一人というのも理由がある。

 それは何かと理由をつけて、オレをイジメる……もとい特訓してくれるのだ。


 大きなお世話だ、とは口が裂けても言えない。

 前回、支部長の特訓がなければ鬼たちとの戦いや、フレっちとの戦いを切り抜けられたかどうか怪しい。

 特にフレっちとの戦いは異世界の、どっかの騎士団長との戦いの経験が活きた。

 剣相手の間合いはかなり重要だった。

 下手をすれば一瞬で真っ二つだ。


 さて、今日は一体、どんな言いがかりで特訓をさせられるんだろうか。


「82点だ」

「……」


 ビックリするほど高得点。

 そんな馬鹿な。


「……あ、1000点満点か」

「10000点満点だ」

「ビックリするくらい低かった!」


 支部長はふふっと笑いながら、甘そうなココアを一口飲む。


「にゃはは、冗談だ。ちゃんと100点満点だよ」

「ホントっすか? なにか裏があるんじゃ……」

「随分と疑り深いんじゃないか?」

「そりゃそうっすよ。何かと難付けつけられて拷問を受けることになるんすから」

「ほうほう。つまり、けいちゅけ少年は特訓を受けたくて受けたくて仕方がないと?」

「いえいえ! そんなわけないっすよ。いやー、高得点嬉しいなー」

「感情がこもってないなー」


 支部長がココアにさらに角砂糖を入れる。

 ドンドン砂糖の量が増えてないか?

 健康とか、大丈夫なんだろうか。


「心配ない。糖を採ってる分、頭を使って消費している」

「なるほど……って! なに自然にオレの思考を読んでるんすか!」


 そうだった。

 支部長と結姫はなぜかオレの頭の中を覗けるんだった。

 なんだろ?

 そういうスキルか何か?


 いや、少なくても結姫は違うな。

 空気を操るスキルなんだから。


「それはそうと、なぜ100点じゃないか聞きたくないか、けいちゅけ少年?」

「いえ、別に」

「今日はガーゴイル100体組手とかどうだ?」

「聞きたいです! なんでしょうか!?」


 得意げにニッと笑う支部長。


 ……いや、そう言わせたんでしょうが。


「一番減点だったのは、大臣との交渉のときだな」


 あー、やっぱり。

 そうっすよね。あれはオレも悪手だと反省してますよ。


「交渉をする側が、馬鹿正直に条件を守るなんて、思わず笑ってしまったぞ」

「……」

「純粋だなぁ、けいちゅけ少年は」

「……スレた大人にはなりたくないっす」

「ふむ。なら大丈夫だ。そんな考えでは大人るなる前に死ぬだろうな」

「……今度からは気を付けます」


 とは言っても、どうすればよかったんだ?

 平原だったから、予め鬼たちや結姫を隠すことはできなかった。


 じゃあ、土の中にいてもらうとか?

 いやいや、現実的じゃない。

 そんなの違和感がありすぎてバレる。


 なら、気球みたいなものを作って空で待機?

 結姫のスキルを使えばできなくもないか?

 ただ、あまり大きなものはさすがに厳しいな。

 せいぜい、5人乗りくらいのものが限界だろう。


 うーん。


「指定場所を変えればいいだけだろう?」

「……あっ!」


 そうだった。

 相手の伏兵を警戒して見晴らしのいい場所を選んだ。

 けど、こっちで指定できるなら、こっちは隠れる場所がありつつ、あっちは隠れられないような場所にすればよかったのか。


 単純だが思いつかなかった。

 コロンブスの卵ってやつだな。


「今回は完全に結姫くんに救われたな」

「そうっすね。結姫が機転を利かせてくれなけりゃ、さすがに終わってた」

「けいちゅけ少年はもう少し結姫くんを信じてやってもいいじゃないか?」

「どういうことっすか?」


 信じるも何も、疑う余地がない。

 スキルもスゲーし、頭も良くて可愛い。

 まさにパーフェクトってやつだ。

 最高のパートナーだと思ってる。


「極力、危険な目に遭わせないようにしてるだろう?」

「……」


 そう言われると言い返せない。

 確かに、結姫が危険になりそうな策は立てない。

 別に意識してるわけじゃないが、思い返しても結姫が矢面に立ちそうな策を立てたことはない気がする。


「だから、もう少し信じてやってもいいんじゃないか? あの子はけいちゅけ少年が思うよりもずっと強いし、機転も利く」

「……そりゃ、わかってるつもりだったんすけどね」

「けいちゅけ少年の気持ちもわかる。女の子を危険に遭わせたくないんだろ?」

「それって、おかしいことっすか?」

「いや、正しいさ。ただ、結姫くんは異性である前にパートナーだと認識した方がいい」

「うーん。無意識を変えるって難しいっすよ」

「ふむ。まあ、そうだな」


 そもそも無意識なんて変えれるんだろうか。


 結姫はオレよりも強い。

 それはわかっている。

 でも、やっぱり結姫が傷つく姿なんか見たくない。


「……って、あ! 支部長!」

「ん? どうした?」

「今回の対象者、JKじゃなかったじゃないっすか!」

「ん? あー、JKかもって言ったはずだが?」

「……いや、言ってないっすよ! 誤魔化さんでください!」

「はは。なかなか記憶力がいいじゃないか、けいちゅけ少年」


 あの情報はやる気が出た半面、暴走するきっかけにもなった。

 そのせいでピンチにもなったし。


「受けなければよかったか?」

「そうは思わないっすけど」

「私は受けてもらってよかったと思うよ。けいちゅけ少年に」

「どういうことっすか?」

「ああいう形で任務完了するのは初めてだろう?」

「まあ……確かに」


 いつもは嫌がる転生者を無理やり連れ戻すだけだった。

 転生者が残るなんて、支部長の言う通り初めてだ。


「けど、よかったんすかね? あのまま残して」

「ん? 問題ないと思って、そうしたんじゃないのか?」

「いやぁ、なんつーか、その場のノリっていうか……」

「けいちゅけ少年。エグゼキュタの狙われないようにな」

「うっ!」

「結論を言うと問題ない。あくまで生死の確認をするという任務だからな」


 そういえば結姫もそんなことを言ってたな。


「で? どう思った?」

「え?」

「今回の対象者が残ることに関して」

「本人が良いって言うなら、いいんじゃないっすか?」

「そう。そうなのだよ、けいちゅけ少年」


 ビシッと指をさしてくる支部長。


「大抵の転生者は力に溺れ、自分の欲望のままに行動する」

「そうっすね」

「ただ、今回のようにその世界に迎合し、その世界の一部になろうとする転生者もいるということだ」

「……」


 穂佳の顔が思い浮かぶ。

 あいつもそうだったらいいんだが。

 助けるなんて、こっちが勝手に焦ってるだけで、案外、穂佳は穂佳で異世界で楽しく過ごしているかもしれない。


 でも、それでももう一度会いたい。

 楽しく過ごしているならそれでいい。

 もし、苦境に立たされているなら助けたい。


「だが、気を付けろよ、けいちゅけ少年。今回は任務が連れ帰るというものじゃなかったからできたことだ」

「……もし、任務が連れ帰るというものだったら、今回のように異世界で暮らしたいと思っても連れ帰らないとならない」

「そういうことだ」


 マグカップをグイッと傾ける支部長。

 だが、カップの中にはもうココアがなかったのか、口を尖らせている。


「転生者はクズだけじゃない。今回のような人間だっている。情に流され過ぎるなよ」

「……心に留めておきます」

「ふむ。それがわかっただけでも、今回の収穫だ。というわけで、今日はもう帰っていいぞ」

「え? マジっすか!? やったぜ」

「明日からビシビシ鍛えるから、ゆっくり休むんだぞ」

「……」


 喜んで損した。

 やっぱり特訓、あるじゃねーか。

 まだアバラが痛いし、支部長の言う通り、今日はゆっくり休むか。

 それが分かってて、今日の特訓はなしと言ったのかもしれないが。


 ということで、せっかくの特訓なしの休みだからパーッと遊びたいところだったが、大人しく帰ることにした。


 疲れも残ってるし、今日は泥のように寝るか。


 そう思って、部屋のドアを開く。


「お帰り」


 そこにはなぜか、結姫がいたのだった。

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