なーんて言ってみたものの、オレもデートなんてものをしたことがない。
プライベートで女の子と出かけるなんて、穂佳以来だ。
つっても穂佳は異性っていうより幼馴染って感覚が強いから参考にならない。
だから知識と記憶をフル動員する。
参考となるものは、読みふけってきたラノベしかない。
えーっと、主人公たちってどういうデートしてたっけな……。
いくら考えてみても、ラノベの主人公たちも今のオレと同じことで悩んでいるシーンしか出てこない。
ちぃ。役立たずどもめ。
とりあえず学生であるオレは貧乏で持ち合わせがない。
もしかしたら結姫は結構持っているかもしれないが、デートに誘ったのはオレだ。
それなのに誘ったオレの方がたかるって最低だろ。
だからお金がかからないプランを考える。
……が、出てこない。
いや、落ち着け。
今までどんな危機的状況でも策をひねり出してきたじゃねーか。
諦めるのは死んでからでも遅くない。
とにかくウィンドショッピングだな。
あれなら金もかからないし、色々な話題をフレる。
「……」
「……」
ってことでショッピングモールにやってきたわけだが。
ただモール内をウロウロしているだけになる。
なぜなら結姫は物欲がないのか、まったく何に対しても反応を示さない。
なので会話をフルことなく、並んで歩いているだけという始末だ。
マズイ。
非常にマズイ。
何かないかと思い、案内板を見る。
結姫が興味をそそられるようなものはないか?
……ん?
お、これいいかもな。
「おい、結姫。来てくれ」
結姫の手を引き、エレベーターに乗る。
向かう先は――屋上。
このショッピングモールの屋上にはちょっとしたスペースがあり、ベンチが並んでいた。
街の風景が一望できるからデートスポットに最適……らしい。
そう案内板に書いてあった。
ここで二人並んで座れば、なんかデートっぽい感じになるだろ。
ベンチに並んで座る。
確かに街が一望できるし、ちょうど夕日が差し込んできて綺麗だ。
「……すまんな、結姫」
「なにが?」
「デートらしいデートができなくて。つまらないことに付き合わせちまったな」
「そんなことない」
そう言って結姫がこっちを見る。
夕日に照らされた結姫は幻想的で街の風景なんか目じゃないほど綺麗だ。
「楽し……かった?」
「なんで疑問形なんだよ!?」
「楽しいって気持ちがよくわからないから」
「……」
「でもいつもと違う感じがした。気持ちが動いた感じ」
結姫がそう言うのと同時に、弱弱しいが優しい風が確かに吹いた。
「恵介くんはなんでいつも私を守るの?」
「ん? そりゃパートナーだからな。守るのは当然だろ?」
「自分の命よりも優先するのはおかしい」
「いやいや。別に自分自身の命よりも優先してるわけじゃねーぞ」
それは本当だ。
今まで自分の命よりも優先したものなんてない。
「そもそも死ぬつもりなんてねーからな。ちゃんと自分の命の保証をした上で策を練ってる」
「そうは見えない。いつも私より傷付いてる」
「それは単に結姫が傷付くより、自分が傷付いた方がマシってだけだな」
「それがよくわからない。他人の痛みなんてわからない」
「だからさ。どんな痛みかわからないから、最初から痛い思いなんてしてほしくないんだ」
「……わからない」
「ま、自己満足だ。んなに気にするもんじゃねーぞ」
すると結姫はオレから視線を外し、街の風景を見る。
「初めて」
「なにがだ?」
「ここまで私と一緒にいた人は」
「……」
「私からいなくならなかった人は……初めて」
「パートナーだからな。これからもよろしく頼むぜ、結姫」
「うん」
思わずテレ隠しで仕事の話にしちまった。
そして、仕事のことといえば思い出したことがある。
「そういえば結姫。オレの部屋に来た理由を聞いてなかったな」
「……忘れてた。ほとりさんから伝言がある」
「支部長から?」
「明日から地獄の特訓をする」
「……」
いやいや。
それは聞いたよ、支部長本人から。
ってことはわざわざ呼びつけたのも、結姫を先にオレの部屋に行かせるためか。
今日は休みにしたのも部屋に結姫がいてビックリさせるためだな。
くそ!
結局、支部長におちょくられただけじゃねーかよ。