目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第49話 合同訓練か

 眠い目を擦り、事務所へと向かう。

 これから地獄の特訓が待っているかと思うと足取りが重い。


 だが支部長が言うには、そういう気が乗らないときの方が特訓にはいいらしい。

 やる気があるときは集中力が高く、いつもよりパフォーマンスが高い。

 そうすると普段より動けてしまう。

 そのときのイメージを持ったまま、いざ本番になったときにイメージとのズレが出る。

 それが命取りになる……のだそうだ。


 あくまで支部長の持論だから信用はできないが。


 ただ、オレたちエージェントは任務中はいつ何時、何が起こるかわからない。

 常に気を張っていられない。

 それにいつでも万全の状態とは限らない。

 傷を負うこともあれば、疲労が限界のときもある。

 そんな状態でも敵は待ってくれないのだ。


 なんて、わかっていてもやる気が出るわけではない。

 ……まあ、出たらダメなんだろうけど。


「ちーっす」


 事務所に入ると、笑顔の支部長が出迎えてくれた。


 気味が悪い。

 支部長のその笑みは嬉しいというより、イタズラしているときの子供のような笑みだ。


「ゆうべはお楽しみでしたね」

「……ネタが古いですし、何もありませんでしたよ」


 すると支部長は口を尖らせて肩をすくめた。


「ふむ。せっかくお膳立てしてあげたんだが。そんなことでは一生童貞のままだぞ」

「童貞と決めつけないでください」


 ……童貞ですけどね。


「それにしても残念だ。劇的に強くなったけいちゅけ少年が見れると思ったんだが」

「……某格闘漫画の主人公じゃないんですから。そんなんじゃ強くなれませんよ」

「いやいや。実際、大事な人ができるというのは馬鹿には出来んぞ」

「結姫はパートナーなんすよ。変に拗れて仕事ややりにくくなったらどうするんすか」


 デートはしたけれども。


「にゃはは。それは悪かった。ではココアを淹れてくれ。とびっきり甘いやつをな」


 そう言って事務所の机の方へ歩いていく。


 どうせ立ってるんだから自分で淹れればいいのに。


 そのままキッチンへ向かい、ココアを淹れる。

 いつもよりも砂糖は控えめにして。

 さすがにあの量の糖分はまずい気がする。

 少しは健康にも気を使ってほしい。


「お待たせっす」


 席に座っている支部長の前にココアを置く。


「ご苦労」


 そう言ってココアに角砂糖をボトボトと入れ始める。


 糖分少なめにした意味ねえ。

 てか、せめて一口飲んでから足してくれよ。


「おはよう」

「っ!?」


 突如、後ろから声をかけられたせいで、思わずビクッと体を震わせてしまう。

 事務所には支部長とオレしかいないと思ってたから、不意打ちでかなりビビった。

 そんなオレの様子を見て、支部長が「修業が足らんな、けいちゅけ少年」と笑みを浮かべている。


「……結姫? なんでいるんだ?」

「トレーニング。今回から参加する」

「そ、そうなのか。なら、昨日言ってくれよ」

「ほとりさんに言えと言われなかったから」

「隠せとも言ってないぞ」


 ニヤニヤしながらココアを一口飲む支部長。


「けど、支部長。結姫は戦闘に関しては問題ないって言ってたじゃないっすか」


 だから今までオレ一人が支部長のイジメに遭ってた。


「確かに結姫くん単体で言えば問題はない。Sランクの任務をこなす下手なエージェントよりも強いくらいだ」

「それならなんで?」

「連携はまるでダメだからな」


 机の中から今までの任務の報告書を出して、ポンと置いた。


「今まで連携らしい連携が取れてないようだな。せいぜい、けいちゅけ少年が囮になって、止めを結姫くんが刺すくらいだろう?」

「……言われてみればそうっすね」

「これからは上の任務にも就いてもらうことになる。そうなれば二人の連携は必須だ」

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?