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第50話 新技完成?

 ゴーレムが巨大な拳を振り上げ、結姫に向かって振り下ろす。


 結姫は怯むことなく右手を掲げる。

 ゴーレムの拳が結姫に当たる瞬間、ガゴンと音がして弾かれた。

 風を凝縮させて盾にしたのだ。


 オレは結姫の陰から飛び出す。

 弾かれたことで体勢を崩したゴーレムに向かって走る。

 そしてゴーレムの体を走って登り、額に書かれている文字を拳で殴って削る。


 動きを止めたゴーレムは崩れ始めた。


「ふう。こんなもんか」


 戦いを見ていた支部長がパチパチと拍手をする。


「なかなか様になってたぞ」


 ぐぬう。

 オレ一人のときは褒めることなんてねーのに。

 なんか支部長はオレには厳しいんじゃねーの?


 まあ、確かに今のはかなりいい連携だとは思ったけど。


「どうだ、結姫くん。風の盾は」

「こんな使い方考えたことなかった」


 マジマジと自分の手を見ている結姫。

 言われてみると結姫はいつもスキルを攻撃にしか使っていなかった。

 防御にも使えるとなると、かなり戦略の幅が広がる。


「支部長。もっと早く言ってくださいよ。これならドラゴンとの戦いはもっと楽になったのに」

「その使い方は結姫くんの能力アップする条件が必要だ」

「あー、そっか。風の威力が低ければ盾として使ってもぶち破られる」

「そういうことだ」


 スキルの力アップは純粋に威力が上がるだけじゃない。

 スキルの使い方の幅が広がるということか。

 今度からは使い方を結姫と話し合っておこう。


「結姫くんは絶対防御を得た。これなら安心して結姫くんを囮に使えるだろ? けいちゅけ少年」

「……まあ、そうっすね」


 それでもあんまり結姫には前線には立ってほしくないが。

 けど、今の連携はかなりスムーズだった。

 周りへの被害も最小限に留められたと思う。

 結姫が止めを刺す場合はゴーレムを木っ端微塵にするから、周りへ被害が出る可能性がある。

 そういう点で言うとオレが止めを刺す方がいい場合もあるな。


「よし、少し休憩にしよう」


 支部長がどこに持ってたのか、ジュースのペットボトルをオレたちの方へ放った。


 ……やっぱり支部長は結姫に甘い気がする。

 オレの場合、何回も休憩を願い出ても却下されるのに。


 座って渡されたジュースを飲む。

 甘さが疲れた体に沁み込んでいく。


 ああ。最高だ。


 親父くさく「ぷはー」なんて言っていると、結姫がちょこんと横に座った。

 結姫も渡されたジュースを飲み始める。


 自然にオレの隣に来るなんて珍しいな。


「読んだ」


 結姫はペットボトルから口を外すとポツリとそう言った。


「読んだ? なにを?」

「昨日の」

「ああ、ラノベか。どうだった?」

「ほとんどわからなかった」

「……そっか。それはしゃーないな」

「でも、わかるところもあった」

「へー、どんなところだ?」

「話すだけで感情が動くところ」

「……ん? あー、そっか。うんうん。そういうときってあるよな」


 全然わかんない。

 言葉が足りなさすぎるぞ、結姫。

 けど、ここで突っ込むのも野暮ってもんだろ。


「おっと、もうすぐタイムリミットだな。結姫くん、けいちゅけ少年。そろそろ戻るぞ」


 時計を見ながら支部長がそう言った。


「あれ? もうそんな経つんすか?」


 特訓に夢中で全然気づかなかった。

 それにしても3日も経ってたのか。

 一人で特訓してたときは、1日が1年くらい長く感じるのに。


 ちなみに異世界同士は時間の概念で繋がっていない。

 だからこの世界で3日過ごしたとしても、元の地球では1時間も経ってないのだ。

 機関から配布される、異世界を行き来する機械にそんな設定が付いているらしい。

 いつも結姫に任せてるから、よくわからないがとても便利だ。

 だから平日でも特訓や任務ができる。


「そういえば支部長。気になったことがあるんすけど」

「なんだ?」

「本部も一応は異世界ってことになるじゃないっすか」

「ふむ。そうだな」

「けど、オレたち、本部に3日以上いると思うんすよね。何で体は大丈夫なんすか?」

「ほう。なかなか鋭い質問だ、けいちゅけ少年」


 まるで出来損ないの子供がいいことを言ったときの親みたいにニコニコと笑う支部長。


 なんかすげー馬鹿にされた感じがするが、気のせいにしておこう。


「本部は全ての異世界と繋がっている、唯一の世界だ」

「全ての異世界と繋がっている……?」

「混じり合っていると言った方が正しいな。本部の世界は異世界であり、元の世界でもあるんだ」

「だからリミットがない上にスキルが使えるんすね」

「そういうことだな」


 凄い技術だ。

 そのくせ、報告書とか指令書とか紙なんだよな。

 なんかスゲーアンバランスだ。


「世界を繋ぐの技術ではなくスキルらしいからな」

「なるほど。科学や魔法、スキルが入り混じって発展した世界だからチグハグ感があるんすね」

「そういうことだ。……さてと、そろそろ危ない。帰るぞ」

「うっす。結姫、行くぞ……って、どうした?」


 振り向くと結姫が僅かに、本当に少しだけ眉間に皺を寄せている。


 え? なんでこんな短期間で不機嫌になってるんだ?

 オレ、なんかしたか?


「すまんかったな、結姫くん」

「……」


 結姫がわずかに首を横に振る。


「支部長、何したんっすか?」

「にゃははは。勉強が足らんな、けいちゅけ少年」


 誤魔化される。

 よくわからないまま、オレたちは元の世界に帰る。

 そしてその日は、ずっと結姫の機嫌が悪かったのだった。

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