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第52話 イケメンはあんま好きじゃねえ

 まさか、城に侵入しようとしたことがバレたのか?


 一瞬、ドキッとしたが、そんなことはなかった。

 道行く人たちや家の中にいた人たちが出てきて、往来の脇に並んでいく。

 道の真ん中が開けられる形になる。


 それはまるで『将軍様のお通りだ』的な感じだ。

 いや、みんなが土下座をしていないところと、並んでいる人の表情がにこやかなので、どちらかというとパレードが通るといった感じの方が近いか。


 もちろん、オレと結姫も沿道に下がって展開を見守る。


 すると数分後に「来たぞ!」という声が上がり、周りの人たちが騒ぎ始める。


「英雄様のお帰りだ!」


 そんな声が所々から聞こえてきた。


 その声たちに応えるかのように、馬に乗った青年が沿道の人たちに手を振りながら道の真ん中を通っていく。

 その青年の後ろには多くの馬に乗った兵士たちが続いている。

 まさにパレードだ。


 そして先頭を行く青年こそが今回の対象者だった。


 リチャード・ボーデン。


 金髪で青い瞳の西洋人だ。

 身長は190センチでやややせ型。

 爽やかなイケメンといった感じだ。


 くそ!

 格の違いを見せつけられている感覚だ。


 そもそも任務書を見た時から、ムカついていた。

 なにより一番ムカつくのは、妙に着物が似合っているところだ。

 着物が一番似合うのは日本人のはずなのに。

 そのはずなのに、本当に似合っている。

 同姓のオレでさえも、見惚れてしまうほどに。


 これは絶対に女にモテるタイプだ。

 現に沿道の女たちもキャーキャー言ってる。


 こ、これは結姫もあれか?

 目をハートにしてウットリするパターンか?


 チラリと横にいる結姫を見る。


「……」


 見事なほどに無表情。

 全く興味がなさそうだ。

 というより虫でも見るような目をしている。


 いや、そこまで蔑まなくていいんですよ、結姫さん。


 そのことでなんかオレの中での溜飲が下がっていく。


 ナイスだぜ、結姫。


 頭に登っていた血が下がり、思考がクリアになってきた。


 後ろに続く兵士たちは甲冑姿で腰に刀を差しているが、リチャードは甲冑は纏ってなく、刀も携帯していない。

 資料で見た通り、体格も華奢で接近戦に持ち込めれば勝ちは確定だろう。


 そして沿道の人たちに向けて笑顔で手を振っていることから、ある程度外面(そとづら)はいいことがわかる。

 ただ良いところの坊ちゃんというわけではなく、表情もどこか引き締まっている。

 意思は強そうだ。


 説得に応じるような人間には見えない。

 おそらくは今回も力ずくで返還することになりそうだ。


「行こう、結姫」


 オレがそういうと結姫は黙って頷き、オレと一緒に歩き出す。


 オレたちはリチャードを観察しながら、城まで向かうのだった。



 ***



「まいったな。隙がねーや」


 リチャードたちが城に入って行くのを見送り、城の門から200メートルほど離れたところで作戦会議を行う。


 さすが英雄と呼ばれるだけはある。

 源五郎丸のようにスキルに頼り切っているわけではなさそうだ。

 笑顔で手を振っていたが、警戒は怠ってはいなかった。


「こっちのこと気付いてた」

「だよなー」


 ちゃんとリチャードから距離も置いていたし、死角になるような場所から観察していた。

 それなのにこちら側を意識した気配を送ってきている。

 つまりは『気付いているぞ』と言ってきているわけだ。


 となると相手の油断をついて気絶させるという作戦はかなり難しい。

 逆にわざと隙を見せてカウンターを狙っているということも考えられる。

 なんとも攻め辛い。


「プラスしてチートスキルか……」


 こうやって見ると今回の任務がAランクというのに疑問が残る。

 前回の任務のようにAA、いや、下手をしたらその上でもいいくらいだ。


「さすが7日で魔王を倒しただけあるよな」


 リチャードはこの世界に呼ばれてから1週間で、魔王と恐れられる存在を倒した。

 その早さは異常で、アリッサさんも歴代トップクラスだと言っていた。


 そしてその強さはさることながら、7日間でこの国の人たちの心を掴んでいる。

 カリスマ性も持ち合わせているということだ。

 つまりリチャードに手を出せば、周りの人間も敵に回るということになる。


 これはかなり厄介だ。

 なぜならオレたちエージェントは異世界の人間に危害を加えてならない。

 だから周りの兵にリチャードを庇われたら手出しができなくなる。


 なんとかリチャードを誘き出さなきゃならないが、こっちに感付いていることから難しいだろう。

 挑発して来させるという手もあるが、乗ってくるような性格に見えない。


「今回もしんどい任務になりそうだな」


 ため息交じりにそう言うと、結姫がほんの僅か表情を緩める。


「いつものこと」

「……そりゃそうか」


 沈んだ気分を一気に上げてくれた。


 本当に最高のパートナーだよ、お前は。

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