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第54話 隙を突くのがオレの十八番だ

 ジリジリとリチャードとの間合いを詰めていく。


 だが、リチャードは腕を組んだまま余裕の表情をしている。


「まあ待て。少し話そう」


 まるで敵意がないかのように微笑んでいる。


 冗談じゃない。

 これ以上話したところで、こっちの情報を与えるだけだ。

 それに会話自体が時間稼ぎの可能性だってある。


 結姫との待ち合わせ時間もあるからな。


 オレは一気に間合いを詰め、リチャードの顔面に向かって拳を放つ。


「プロテクト」


 リチャードがそう呟くと、突然目の前に見えない壁が現れてオレの拳を止める。


「ちっ!」


 素早くしゃがみこみ、足払いを放つがそれも壁に止められてしまった。

 壁の範囲はリチャード全体を覆っているようだ。


「フレイム・サークル」


 今度はオレを囲うようにして炎の輪が出現する。 

 咄嗟にジャンプをして、炎の輪から逃れたが、結局元の位置に戻ってしまう。


「戦い慣れている……というより、魔法を使う相手を想定して訓練したというところか」


 またまた大正解。

 この任務に来る前に、支部長から対魔法使いに関しての拷問――特訓を受けている。

 そのおかげで危機を回避できたが、その動きだけでそこまで見破られるのか。

 かなり面倒くさい相手だな。


「ということは、私の情報は全てわかっていると考えた方がよさそうだな」


 リチャードが腕組を解く。

 そして明らかに警戒の色を強めた。


 くそ、油断しててくれよ。


 思わず舌打ちしてしまう。


 それにしても本当にチートな『スキル』だな。


 リチャードのスキルは『魔法』だ。

 結姫の風やフレっちの炎を操るわけでもなく、『魔法』を使う。

 なので炎の輪を出したり、見えない壁を出現させたりできる。


 しかもリチャードは経験値を魔法に振ることで魔法をカスタマイズしたり、新たな属性の魔法を習得したりできる。

 つまり汎用性が半端ない。

 何をしてくるのかわからない。


 さらに詠唱や魔法陣、陣を切るような動作さえも必要としない。

 おそらくはそうカスタマイズしたんだろう。


 ヤバすぎるだろ、このスキル。

 しかもここまでカスタマイズ出来ているところから見て、かなりの努力家だ。


 この手のチートスキルを持つ奴は、大体、その能力の上に胡坐をかいて努力はしないのが定番なんだがな。

 しっかり検証と工夫の努力をしている。

 7日間で魔王を倒しただけある。

 てか、7日でどこまで経験値貯めたんだって話だ。


「投降してくれ。悪いようにはしない」


 戦力差は火を見るよりも明らかだ。

 チートスキル持ちのリチャードとスキルなしのオレ。

 もし賭けだったとしたら、オレにどのくらいオッズが付くんだろうか。

 いや、オレに賭ける奴なんていないだろうから、そもそも賭けなんか成立しないだろう。


 とはいえ、もちろん投降する気なんて毛頭ない。

 結姫を待たせてるしな。

 それに支部長にやらされた特訓で、こういう場合のパターンも想定してある。


「わかった。投降する」


 オレは手を上げてから頭の後ろで手を組む。

 するとリチャードは少しだけホッとしたように息を吐いた。


 リチャードはオレから情報を得たいはず。

 だからオレを殺したり、重傷を負わせたりはしたくない。

 だからそこを突く。


「オレもあんたと話がしたいと思ってたんだ」

「……その割には有無を言わさずに攻撃してきたようだが?」

「ノックアウトしてからの方が話しやすいと思ったんだよ」

「それは話し合いではなく、命令になるな」

「そうとも言う」


 オレは少しずつリチャードに近付く。


「そこで止まってくれ。話ならこの距離で十分できるだろ?」

「オレは若いんだが、耳が遠くてね。もう少し近づかないと聞こえないんだ」

「会話は十分できている気がするが?」

「そう……だな!」


 オレは背中に張り付けていたナイフを取り出し、リチャードに向けて投げる。


「プロテクト」


 リチャードはすぐに見えない壁を出現させてナイフを弾く。

 だが、その隙にオレは駆け出してリチャードの脇を抜ける。


「逃がさん! フレ……」


 リチャードが次の魔法を放とうとした瞬間、オレは振り返る。


「なっ!」


 そしてそのままリチャードの顎をアッパーでかち上げる。


「うぐっ!」


 リチャードが仰向けに倒れた。


 魔法のスキルは確かにチートだが。

 複数の魔法を同時には出現させられない。

 なので、次の魔法を出すときには、前の魔法を『消さないと』ならない。


 つまり逃げるオレを捕まえるための炎の輪を出すためには、見えない壁を消さなければならないというわけだ。

 その隙を突いたというわけだ。


 本当はここで止めの一撃を入れたいところだが、今は逃げることを優先する。


 不意をついたとはいえ、あれで終わるとも思えんし。


 オレは来た道を走って戻る。


 しかし前から大勢の兵士たちが押し寄せてくる。


「いたぞ! 通すな!」


 既にリチャードの策は成功していたようで、オレは大勢の兵士たちに取り囲まれてしまったのだった。

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