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第61話 疑惑の国

 約5000人の騎馬兵。

 平原に整列している光景に圧倒されてしまう。


 よく漫画とかで数万という兵士の数が出てくるからあんまり大したことないと思ったが、そんなことはなかった。

 本当に凄い。

 ただ、この人数が戦うという戦場のイメージがわかないな。

 一体、どうなるんだろうか。


 ……体感はしたくないが。


「最重要な部分を任せることになってすまない」


 馬上からリチャードが頭を下げる。


「気にすんな。オレが言い出した作戦だし。自分で尻拭いするさ」

「もし、想定外のことがあればすぐに撤退してくれ」

「平気さ。あんたはオレの合図を待ちながらゆるりと戦ってくれればいい」

「それでは健闘を祈る」

「お互いにな」


 そしてリチャードは兵を引き連れて出撃する。


 オレが立てた計画は単純。

 リチャードが挙兵して、相手の兵を引きつける。

 その間にオレが城に侵入して王を捕まえるというわけだ。


「オレ『たち』よ」


 前にいる結姫が訂正を促してくる。


「……オレだけでいいって。結姫は街でゆっくり待ってろよ」

「信用できない」

「……」


 まだオレが2時間以内に戻ってこなかったことを怒っているらしい。


 うーん。

 今回は尾を引いてるな。

 そんなに怒ることか?


「そんなことだから怒ってる」

「……」


 相変わらず、普通に心を読んでくる。

 結姫は前にいるので、オレの顔は全く見えてないはず。

 ということは表情を読んでいるわけではない。


 一体、どうやって読んでるんだ?

 やっぱり、そういうスキルでも持ってるのか?


「それに恵介くんだけだと国に着く頃にはタイムリミットになる」

「……そ、そうだな」


 確かに全力で休みなく走ったとしても2日くらいかかる。

 結姫の言う通り、タイムオーバーだ。


 なのでオレたちは馬を借りた。

 馬で飛ばせば半日で着ける。


 ただオレは馬に乗れなかった。


 てか、馬に乗ることって普通ないよな。

 だから簡単に乗れると思った。

 だが、これが意外と難しい。

 思った通りに進んでくれないし、そもそも走らせると振り落とされそうになる。

 これじゃ、逆に走った方が早いくらいだ。


 そして結姫は乗れた。

 普通に。

 きっと結姫は乗馬クラブとかで乗ったことがあるんだと思ったが「初めて」と言われてしまった。

 なんでもそつなくこなす結姫らしいといえば結姫らしいか。

 なので、今は馬に乗る結姫の後ろに座り、結姫に掴まっているという状況だ。


 こういうのは絵面的に逆だと思うんだけどな。

 オレが颯爽と馬を操り、その後ろで結姫がぴったりと掴まっている。

 これがベストなんだけどな。


「乗れないんだから仕方ない」

「うっ! そ、そうなんだけどよぉ」

「出発する」


 結姫が手綱を操ると馬が歩き始める。


「どわっ! 結姫! ゆっくり、ゆっくりでお願いします!」

「……それだと時間内に着けない」


 無情にも結姫はすぐにスピードを上げていく。


「おわっ! 落ちる! 落ちるってーーー!」


 オレは振り落とされないように結姫にしがみ付くのに必死になるのだった。



 ***



 3時間もすると後ろに乗るのも慣れてきた。

 何回か、結姫の胸を掴んで肘鉄を食らったが、あれは不可抗力だった。

 オレ自身、必死だったから感触を覚えてないし。


 とにかく普通に会話できるくらいには余裕が出てきた。


「なあ、結姫」

「なに?」

「なんで西の大国はあの国に攻めてきたと思う?」

「……国の復興は出来つつあるけど、国力は回復していない。だから勝てると思った」

「まあ、そう思うよな……」

「リチャードのことが引っかかるということ?」


 そう。

 例えば、2つの国がそれぞれ兵力が同じくらいだったとする。

 その一方が魔王たちによって大きく兵力を削られた。

 だからもう一方の国が機を見て攻めてくるというのはわかる。


 だが、今回に関してはそう単純な話ではない。


 それは結姫の言う通り、リチャードの存在だ。

 リチャードは飛び抜けた能力を持っている。

 そもそも、リチャード1人で魔王たちに勝ったと言っていい。

 それはリチャード1人が魔王たちよりも戦力が上だということだ。


「あの国が魔王たちによって疲弊していることは意味がない」

「もちろん、多少は影響はあるだろうけど、決定的とは言えねえ。というより、リチャードが現れたことで逆にあの国の兵力は高まったと言っていい」

「……西の大国は元々、魔王たちを圧倒できるほどの戦力があった……?」

「んー。あの国が魔王たちに滅ぼされるのを待ってたっていうことも考えられるけど、それならリチャードが現れる前に攻め込んでいると思うんだよな。援軍や支援を送らずに」

「……確かに」

「それに西の大国はリチャード1人に、明らかに手を焼いている。今日だって勝利して凱旋してたくらいだからな」

「……西の大国はなにかを企んでいる?」

「考えたくねーけどな」


 このときオレは、どうせ今回もすんなりと上手くはいかないだろうなと、どことなく嫌な予感がしていた。

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