目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第62話 切り札はお前かよ!?

 西の大国に着いたのは早朝のことだった。

 本当はもっと早く着けたが、疲れ切った状態で到着しても意味がない。

 オレたちの目的は城に到着することじゃなく、王を捕縛することだからだ。

 なので途中で3時間ほど睡眠を取ってから大国に来た。


 さすがにそのままの格好だと目立つので、オレも着物に着替えた。

 最初は格好いいとテンションが上がったが、なんか色々スースーして落ち着かない。

 浴衣とかも来たことなかったしな。

 まあ、そのうち慣れるだろう。


 城下町に入る際に、関所らしい場所があったが、さすがに不審者だとバレてお縄になるだろう。

 そうはならなくても、通過できる気がしない。

 だから街を囲っている壁を登って通過することにしようと考えていると、関所の扉が開いた。


 街の中から大量の馬に乗った兵士たちが出て行く。


 おそらく、リチャードが挙兵したという知らせを受けて、西の大国も出兵したのだろう。

 その数はリチャードたちの倍はいる。

 普通だったら、リチャードはかなり危機的状況になるはず。

 だが、リチャードはこのくらいの数を出してくるだろうと読んでいる。

 それでも余裕で勝てると言っていた。


 全ては計画通りというわけだ。


 だが嫌な予感は消えない。

 なにか、根本的に状況がひっくり返りそうな予感。


 結姫も同じように感じたのか、真剣な表情で「慎重に」と呟く。

 オレは頷いて、街を囲む壁を結姫と共に登り始める。


 本当は先に結姫に登らせて、下から色々見えちゃいけないものを見てしまって、蹴りを入れられるとかしたかったが、そんな雰囲気ではない。


 街の中に降り立つと、早朝のせいかほとんど人が歩いていない。

 オレたちはなるべく目立たないようにして城を目指す。


 西の大国と呼ばれるだけあり、城はリチャードたちがいたところよりも大きい。


 こりゃ、街に入る時よりも城壁を登るのは骨が折れそうだ。


 と思っていたが、ここで予想外のことに気付く。

 城門に兵士が立っていない。


 それどころか、門が開いている。


 どういうことだ?


 結姫と顔を見合わせる。

 一瞬、罠の可能性も頭をよぎったが、そもそもオレたちの存在は知られていないはず。

 それに罠を張るにしても、街の中にするのではないだろうか。

 わざわざ城の中でなんてリスクの高い方法を取るとは思えない。


 虎穴に入らずんば虎子を得ず。

 オレたちは慎重に門を潜り、城の中へと入った。


 城の中には兵士がいなかった。

 まるでもぬけの空だ。


 リチャードたちを迎撃するために、全兵力を出したのか?

 いや、リチャードの見立てでは数百の兵士は国に残すはず。

 というより、誰だってそうするはずだ。

 国をもぬけの空にして、そこを別動隊に攻められれば負けは必至。

 余程の馬鹿じゃなければ、そんなことをするわけがない。


 余程の馬鹿であってくれと願いつつ、城の中を進む。

 すると、窓から広場が見えた。

 おそらくは軍事訓練をするための場所だろう。

 そこに300人くらいの兵士が馬に乗った状態で待機している。


 リチャードの読み通りの数だ。

 ということは残った兵士を集めているという可能性が高い。


「……訓練なわけねーよな?」


 今、まさに戦争が始まるというのに、訓練なんてするわけがない。

 となると――。


「攻め込むつもり」

「……だよな」


 西の大国も、オレたちと同じような作戦を立てたというわけだ。

 リチャードを大軍で引きつけつつ、精鋭で本丸に攻め入る。


 城の中に兵士がいなかったのも、全兵力を集結させているんだろう。


 もちろん、リチャードもその危険性を読んで、国の警備に1000人ほどの兵士を残している。

 いくら精鋭だったとしても、3倍以上の兵力差をひっくり返せるものだろうか。

 そもそも、こんな古典的な戦法で裏をかけると思っているのか?


 こういうのはオレたちみたいな『切り札』があるからこそ、有効な手だ。


「この国も何か切り札がある……」

「そうじゃないことを祈るしかないな」


 もしそうだとすると、戦況はあっさりとひっくり返る。

 リチャードと同程度の切り札だったとしたらかなりマズイ。


 だが、ここはチャンスでもある。


 今は広場に全兵力を集めているということは、王の警備が薄い可能性が高い。

 例え、圧倒的に不利だったとしても、先に王さえ取れば詰みだ。


 一手の差でオレたちの勝ちだな。


 オレたちは慎重に、かつ急いで王の居場所を探す。

 上へ上へと登って行き、最上階へと到着する。


 馬鹿と偉い奴は高いところが好き。

 それはこの世界でも同じだった。


 明らかに他とは違う、豪華な扉。

 悪趣味でケバケバしい。


 どうせ、成金趣味のショボいやつだろう。


 そう思って、扉を開ける。


「むっ! なにやつ!?」


 そこには筋肉隆々のゴツイ男が立っていた。

 腰にはガタイに相応しい刀を差している。


 明らかに強者の臭い。


 どうやら西の大国の切り札は王そのものだったらしい。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?