身長は195……いや、2メートルはあるかもしれない。
筋肉隆々でプロレスラーのような体格。
年齢は40代後半から50代くらいか。
ピンと上に上がった口ひげ。
どう見ても王様というよりは戦国武将だ。
腰にはその体に見合った、大きい刀を差している。
そして見掛け倒しではないと分かる、強者が纏う空気。
まさかの王様が強いタイプか。
ただ、考えてみれば魔王だって、魔族の中で一番強いからな。
人間でも王が一番強くてもおかしくないよな。
でも、なんで人間の王様って威厳はあっても強いってイメージがないんだろう。
なんてどうでもいいことを考えている場合じゃない。
「恵介くん。連携で一気に倒す」
幸い、兵士たちは全員、広場で待機している。
王の護衛もいない……というか護衛する必要がないのだろう。
とにかく王が一人という状態なので、捕縛するには絶好のチャンスだ。
だが……。
「結姫は下がっててくれねーか?」
「どうして?」
「あの王様、見かけ通り強ぇ」
「それなら尚更」
「いや、結姫がスキルを使えるということはギリギリまで隠しておきたい」
オレはそもそもスキルを使えない。
だから戦いは肉弾戦だ。
そうなれば王様は、オレたちはリチャードのような魔法――スキルを使えるとは思わないはず。
そう思い込ませれば隙ができる。
そこを突いてもらうのが確実――な気がする。
「それにオレ一人でもたぶん勝てる」
「……」
肌感という何となくの感覚なのだが。
それに支部長には相手の強さを感じる感覚を養っておけと言われている。
エージェントのような、いつ、何と戦うかわからない仕事の場合、瞬時に相手の力量を感じ取れる能力は、実際の強さよりも必要らしい。
確かにそれはその通りだろう。
ただ、それは一朝一夕で身に付くものじゃない。
こうやって場数を踏むしかない。
今回のような一対一で戦える場は、最高の経験値稼ぎというわけだ。
「もし、危ねえと思ったら、来るときに話した、あの戦法を試してくれ」
「……わかった」
「間違っても、スキルを王様に当てるなよ」
「わかってる」
あまり納得はしてなさそうな表情だが、一応はオレのことを信じてくれたらしい。
それにそもそもオレたちエージェントはその世界の人間を傷付けてはいけない。
だからこそ、スキルを持たないオレがルールギリギリの範囲で気絶させるという作戦なのだ。
「なんだ? 刺客のくせに怖気づいたか?」
「そういうあんたは部下を呼ばないのか?」
「呼ぶ必要などないだろう。というよりせっかくの楽しみの場を邪魔などされたくない」
がはははと豪快に笑う王様。
あっちはあっちで、一対二でも勝てると思っているのかもしれない。
そのくらい相手の力量を測るというのはブレがあるみたいだ。
最悪、オレの感覚の方が間違っていて、瞬殺される可能性だってある。
「それじゃ、パパッとやっつけてくる」
結姫の信頼をさらに強くするためにも、ここは負けられない。
オレは部屋の中に入り、軽くステップを踏みながら構える。
「武器はどうした?」
「あるぜ、ここに」
拳を握って見せる。
「なるほど徒手空拳か」
王様も刀を抜いて構える。
「頼むから、一瞬で散るなんて肩透かしなことをするなよ」
ニヤリと笑いつつも、殺気が膨れ上がっていく。
威圧感が半端ない。
後ろで結姫も臨戦態勢になった。
相手は刀。
気を抜けば一瞬で真っ二つだ。
だが、この仕事をしていれば死が隣り合わせなんて日常茶飯事。
このくらいのプレッシャーの方が逆に心地いいくらいだぜ。
様子見はなし。
オレは一気に間合いを詰める。
すると。
「はっ!」
いつの間に振りかぶったのか、王様は刀を振り下ろしてくる。
速ぇ。
が、甘い。
体を捻って刀を躱す。
「甘いわ!」
王様は刀を返すことで太刀筋が、横薙ぎに変化する。
「うおっ!」
慌ててしゃがみこむことで何とか回避。
さらに王様は刀を引いて、今度は突き降ろしてきた。
「おっと……」
後ろに大きく下がって、突きを避けた。
ふう。
危ない危ない。
「ほう。なかなかの動きだ」
一気に汗が噴き出てくる。
少しでも反応が遅れてたら、今ので終わってた。
「……恵介くん?」
結姫からの、若干呆れたような声。
そこには「手伝おうか?」というニュアンスが含まれている。
「いやいや。ちょい待ってくれって。様子見よ、様子見」
「……」
何とか誤魔化すが、たぶんバレバレだろう。
「二対一でも構わんぞ」
抑えきれないといったような笑みを浮かべる王様。
その表情から、戦いが本当に好きなんだろうとわかる。
まさに戦闘狂。
本人はいつでも戦場では先陣を切って戦いたいのだろう。
だが、立場がそれを許さない。
いつも戦いは後ろで見ているだけだったのだろう。
だからこそ、刺客が襲ってきたことに歓喜している。
警備の兵を置いていないのも、そういうことなんだろう。
「何言ってんだよ。戦いはこれからだろ?」
「失望させてくれるなよ」
オレは再び王様と対峙するのだった。