勝負は仕切り直し。
最初の攻防は王様が優勢。
そしてその攻防から、認識を修正する。
身体能力はややオレの方が上だが、総合的な強さは悔しいけど王様の方が上だ。
圧倒的に刀のアドバンテージが王様にある。
下手なスキルを凌駕するほどの卓越した剣術。
にしても、ここからまた間合いを詰めなきゃならないのか。
刀と素手ではリーチが全然違う。
相手の懐に入らないと話にならない。
だが、逆に懐に入ってしまえば圧倒的に有利だ。
接近戦では刀は返って邪魔になる。
それがわかっているからこそ、王様も間合いに入らせないように連続で技を繰り出してきたんだろう。
スムーズな三連撃。
完全に技として昇華されている。
まさに芸術といっていいくらいの洗練された動きだった。
もし、王様ではなく剣客であれば、剣豪として名を馳せていたに違いない。
けど、さっきの攻防で勝ち筋が見えた。
王様の技は『綺麗過ぎる』。
「いくぜ!」
再び一気に間合いを詰める。
今度は突きからの、斬り上げ。
そして袈裟切り。
まさに流れるような動きだ。
しかし、それだけに読みやすい。
単調と言ってもいい。
「く、くそ!」
連続で技を繰り出してくる王様。
それを紙一重で躱していく。
「うおおおおおおおおおお!」
当たらないことに対しての焦りか苛立ちか。
洗練された――いや、決まった動きがドンドンと大雑把になっていく。
そうなればさらに読みやすくなる。
徐々に間合いを詰めていき、完全に懐に入った。
「させるかぁ!」
王様が強引に横薙ぎしてきた。
当たったとしても刀の根本なので、威力は落ちる。
だが、そこは力で押し切るつもりだ。
受ければ無事じゃ済まない。
けど、避けられるほどの間合いはない。
なので、右腕を上げる。
「腕ごと叩き切ってくれる!」
力任せに刀を振るう王様。
――ガキン。
オレの腕に当たった刀は、腕を切り飛ばすことなく、逆に弾かれる。
「な、なにっ!?」
あまりの事態に王様の動きが止まった。
「うおおおおおおお!」
ガラ空きの腹に左拳をめり込ませる。
「ぐはあっ!」
王様の体がくの字に曲がった。
その頭にハイキックを入れる。
王様は声をあげる間もなく、前のめりに倒れて気絶した。
「ふう……」
流れ出る額からの汗を拭い、結姫に向かった笑顔で親指を立てる。
「余裕……」
「ギリギリだった」
「うっ!」
確かに最後の横薙ぎは想定外だった。
『仕込み』がなければ、完全にオレの負けだ。
右腕にはトンファーを持っていたのだ。
そのおかげで刀を弾き飛ばせたというわけである。
これくらいの武器はね、当然持つよね。
自分は刀を持ってるんだからね、卑怯とは言うまいね。
「お疲れ様。本当に一人で勝ったね」
結姫が歩み寄ってきて、ハンカチで汗を拭ってくれる。
「はは。支部長に感謝しねーとな」
もちろん、支部長との特訓や日々の任務の積み重ねのおかげでもある。
ただ、王様の経験不足に助けられたのが大きい。
明らかな実戦不足。
それは『型に嵌った動き』でわかった。
技を身に着けるために、気が遠くなるほど反復したのだろう。
そのおかげで動き自体は洗練されていた。
だが、相手に対しての微調整がなかった。
想定された動きに対しての、想定の技。
それは相手が違えば、間合いや動きが変わっていく。
そこに対しての調整がされていなかった。
だからこそ、見切ることが容易だったのだ。
本来であれば実戦を重ねる中で、『本当の技』として完成するもの。
だが、王様という立場がそれを阻んだ。
戦場では前線に行くことはおろか、実際に相手と剣を交えることさえもほぼなかったのだろう。
もちろん、対人戦はやっていたはずだ。
しかしそれはあくまで訓練の延長線であり、命のやり取りの場では全く違うものになる。
現に間合いに入られてからの動きは、素人以下の取り乱し方だった。
そして実戦経験がないことで、オレが素手だと信じて疑わなかったことも大きい。
何も持っていなさそうでも、何かを隠し持っていることは想定しておかなければならない。
懐に入られた瞬間、後ろに下がって間合いを確保するのがセオリ―だったはずだ。
……なんて偉そうなことを考えているが、割と紙一重だった。
めちゃくちゃ冷汗掻いたぜ。
必死だったせいで、力の加減ができずに、全力で殴って蹴っちまった。
現地の人間を傷付けたことで本来だったら本部に見つかって、問題になるレベルだろう。
けど、スキルを使ったわけじゃないし、セーフだよな。
報告しなけりゃバレんだろ。
「けど、まあこれで……」
倒れている王様を見る。
「ミッションコンプリートだ」