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第66話 やっぱ結姫はすげーな

 トロルが持っていた棍棒を振り上げ、オレに向かって振り下ろしてくる。


 スピードは中の上。 

 これなら余裕で避けられる。


 後ろに数歩下がることでトロルの棍棒は空を切り、床に激突した。

 床に大きな穴が開く。


 威力は上の下。

 別に驚くほどのこともない。


 それなのに。


「恵介くん、下がって!」


 結姫が叫ぶ。

 手の平を広げ、トロルに向けている。

 どうやらスキルを放つ気だ。


「ちょい待った!」

「どうして!?」

「もう少し探らせてくれ」


 個体としては普通のトロルと比べて、各段突出したところはない。

 それなのに、オレの中の警戒アラームがずっと鳴りっぱなしだ。


 なにかある。


 現にトロルは、オレに向けて振った棍棒はちゃんと威力が最大になる間合いで放ってきていた。

 それに床に穴が開いたが、派手な壊れ方ではなくコンパクトに破壊されている。

 つまりは手首を返して、力が発散しないような『技術』を使っているということだ。


 トロルは普通、そこまで頭がよろしくない。

 攻撃だって力任せに棍棒を振り回すしかしてこないのだ。


 それなのに『技術』を使っている。

 そして、驚いたのはそれだけじゃない。

 なんと――。


「ゲヒヒ。お前強い。面白い」


 しゃべった。


 チラリと結姫の方を見ると、結姫も目をいつもより大きくして驚いている。


 そんな個体、今まで見たことないぞ。


「……お前、何者なんだ? なんで、この世界にいる?」


 しゃべれるなら、情報を引き出せるかもしれない。

 そう思って問いかけてみる。


「知らん。頼まれた」

「頼まれた? 誰にだ?」

「うるさい!」


 トロルが再び、棍棒を振り回してくる。


 話せるとは言え、情報を聞き出せるほどの知能はなさそうだ。

 となれば、倒すことに集中してもいいだろう。


 未だに嫌な予感は消えないが、防戦一方では埒が明かない。


 オレはトロルの棍棒をかい潜り、懐へと入る。


「とりあえず、気絶してもらうぜ」


 全力でトロルのみぞおちに拳をめり込ませた――はずだった。


 ガン!


 オレの拳はトロルに当たる寸前で『見えない壁』によって阻まれる。


「なにっ!?」


 突然のことで一瞬、頭が真っ白になる。

 トロルはそんなオレを見逃すことなく、棍棒を横薙ぎに振ってきた。


「ぐっ!」


 何とか腕で防ぎつつ、横に飛んだが勢いを殺しきれない。


 そのまま吹っ飛び、壁に叩きつけられる。


「恵介くん!」

「大丈夫だ」


 オレはすぐに立ち上がってみせる。

 本当は今のダメージで足がガクガクだが、結姫に心配をかけるわけにはいかない。


 それよりも――。


「スキル、だよな?」

「間違いない……と思う」


 タイミングは完璧だった。

 トロルの巨体じゃ絶対に避けれないほどの。


 なにより避けられたのではなく『弾かれた』のだ。

 通常、トロルにはそんな能力はないし、魔法も使えない。

 それなのに見えない壁を発現させた。


 どう見てもスキルを使った以外に考えられない。


 だが、モンスターがスキルを使うなんて一度も聞いたことがない。

 そもそもスキルは『異世界に転生した人間』が目覚める能力だ。


 そして異世界に転生できるのは『人間だけ』と支部長も言っていた。


 ますます混乱してくる。

 ただ、オレの中の警戒アラームの原因がわかったというのは一歩前進といったところか。


「考えるのは後」

「だな」


 詠唱もなく、仕草もなく、一瞬で発動できたところを見るとトロルのスキルは、そのまま『ガード』と考えてもいいだろう。 

 リチャードのように魔法ではなさそうだ。

 カスタムを繰り返したリチャードでさえ、あのタイミングでピンポイントにガードの魔法は使えない。

 トロルがリチャードよりもカスタムをしているとは思えん。


 なら、やることは一つ。


「はああああああ!」


 再び、トロルの攻撃を避けて懐に入り、攻撃を重ねる。


 ヒットアンドウェイ。

 倒すための攻撃ではなく、検証のためだ。

 どこまでの範囲か、効果時間や発動条件を検証していく。


 意外に厄介だな。


 スキル範囲はヤツの体全体をゆうに覆っている。

 持続時間も長い。

 おそらくトロルが解くまで出現している。


 ただ、自動で発動しているわけではなく、トロルの意思で使っていることがわかった。

 ということはトロルの意識外から攻撃を放つしかない。


 それなら結姫のスキルが有効だ。


 しかし、突然、結姫が走り出した。

 参戦するつもりだ。


「おい、結姫!」


 結姫のスキルは見せたくない。

 風を操ることを知れば、視界外も警戒し始める。

 そうなると隙を突くことはできない。


「わかってる」


 結姫は床に転がっている王様の刀を拾い上げる。


 そして――。


 刀を振ると同時に風の刃を放った。


 なるほど。

 そういうスキルに見せかけるということか。


 だが、結姫が放ったスキルは巨大で城を吹き飛ばしそうなほどの威力だった。


「ぐっ!」


 その風の刃がトロルに直撃する。


 こりゃ、勝負ありだな。

 ……最初から、そうすればよかった。

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