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第68話 トロル討伐と結姫の御褒美

 やっべー!

 罠にかけるつもりが、嵌められた。


 奴は怒ったフリして、わざと大振りをしやがった。

 その隙をオレが付くことを予想して。

 計算高いというより、戦闘の勘ってやつだ。


 トロルがニヤリと笑う。


「ちょ、タンマ!」


 トロルが振り上げた棍棒を振り下ろす。

 この距離じゃ、避けることができない。


「オオオオオオオオ!」

「うわああああ! ……なーんちゃって」


 ガキン!


 トロルの棍棒はオレに当たる前に弾かれる。


「っ!?」


 何が起こったかわからないトロル。


「チェックメイトだ」


 今度こそ、オレの渾身の一撃がトロルの腹にめり込む。


「う……ぐうっ!」


 前のめりに倒れ、気絶する。


「勝……利」


 派手にガッツポーズを決めたかったが、一気に全身の力が抜け、その場に座り込んでしまう。


「うまくいってよかった」

「ナイス、結姫」


 駆け寄ってきた結姫にグッと親指を立てる。


 トロルの棍棒を弾いたのは、もちろんオレの力ではない。

 結姫のスキルだ。


 風の壁をオレの目の前に発生させた。

 リチャードがオレを捕まえるときに、見えない壁を自分ではなくオレに対して発動させたときと同じ原理だ。


 支部長との特訓で、結姫が風の壁でガードするという使い方をしていたから、できると思っていた。

 それをこの国に来る途中で、結姫と打ち合わせしておいたのだ。

 この作戦があったから、なるべく敵に結姫のスキルを見せたくなかった。


「マジ、しんどい」


 オレはそのまま寝転ぶ。

 ずっしりと体が重く感じる。


 もう限界だ。

 起き上がれねえ。


 すると頭を持ち上げらる。

 そして、今度は頭に柔らかい感触がした。


「ご褒美」


 なんと結姫が膝枕をしてくれている。


 うわ……。

 すげえ。あの結姫がこんなことをするなんて。

 どういう風の吹き回しなんだ?


「恵介くんに借りた本に書いてあった」


 ああ。ラノベのことか。


「こうしたら、嬉しいのでしょ?」

「ああ、最高だ」


 転がって顔全体で、結姫の太ももを堪能したいところだが、体が痛くて動けない。

 素直に後頭部だけで感触を楽しんでおこう。


 だが、そのときだった。


 ガラッと扉が開く。


「遅れて済まない」


 リチャードが息を切らせながら部屋に入ってきた。


「来るのが遅ぇ! ……いや、早いぞ!」

「……?」


 リチャードは首を傾げ、結姫はスッと立ち上がったのだった。


 くそう。

 もう少しだけ堪能したかった。



 ***



 来てから数時間で、国を制圧するリチャード。

 広場に待機していた兵士はリチャードの姿と、お縄についた王様を見て抵抗を見せることなく投降した。


 それは仕方ない。

 既に国のほとんどの軍をリチャードにぶつけていたはずなのに、全くの無傷の姿を見れば戦意なんて残るはずもない。

 なので兵士を責めるのは酷というものだ。


 あとは半日後に、リチャードの方の国王が来るので、色々引き渡せば終わり。


 リチャードも素直に元の世界に帰ってくれる。

 そうすればオレたちの任務も、無事終了というわけだ。


「すまん。やっぱ、少し横になるわ」


 今まで結姫と並んで座って、リチャードたちが働いているのを見ていたが体の限界だ。

 本当はリチャードを元の世界に帰すまでは平然を装っていようと思っていたが、体のダメージは思った以上に深刻だった。


「すぐに寝室を用意させよう。王が来るまで眠ると良い」

「助かる。結姫も一緒に寝るか?」

「……馬鹿」


 あれ?

 てっきり罵倒されるかと思ったんだがな。

 さすがに満身創痍のオレに、心のダメージを負わせないように配慮してくれたのか?


「結姫。起きれる自信がないから、時間になったら起こしに来てくれ」

「わかっ……」


 ドン!


 その場にいる全員が、何が起こったのかまるで理解できていなかった。


 突如、音を立てて出現したのはトロルが出てきた『穴』だった。

 しかも、今度の穴はトロルのときの、数倍……いや、数十倍はあろうかという巨大な穴だ。


 小さな家くらいならすっぽりと入ってしまいそうな大きさだ。


「……嘘、だろ?」


 まず、最初に現れたのは羽を持つ竜――ワイバーン。

 その次はシーサーペント。

 一つ目のサイクロプスの後にはオーガの群れ。


「な、なんだ、こいつらは? こんな化け物……見たことがないぞ」


 リチャードが呆然としながら、呟いている。


 その場にいる全員が、金縛りにあったかのように動けない。

 ただ、次々と現れるモンスターを見ていることしかできなかった。


「ウオオオオオオ!」


 そんなオレたちに向かって、モンスターたちが無情にも襲いかかってきたのだった。

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