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第71話 結姫と一緒に

 止めようと手を伸ばすが、届かない。


 サイクロプスに向けてスキルを放つ結姫。

 巨大な風の刃はサイクロプスの腕を切り裂くが、隙ができたところに蹴りを受けて吹き飛ぶ。

 空中を舞い、地面に叩きつけられる。


「結姫ー!」


 駆け寄ろうとしたところに、オークが斧で襲って来る。


 くそ!

 体が動かねえ。


 なんとか腕を上げて頭を守る。

 腕が使い物にならなくなるかもしれないが、頭をかち割られるよりはマシだ。


 だが。


 ガキン。


 結姫が遠くからオレの周りに風の盾を作った。


「オレのことなんていい!」


 オレなんかを守るために、結姫はオークたちに囲まれている。

 オークたちは一斉に斧を振り上げた。


「やめろおーーー!」


 オレは一瞬のうちに結姫のところへ走り、オークたちを蹴散らす。


 どこにこんな力が残っていたかわからない。

 たぶん火事場の馬鹿力ってやつだろう。


「がはっ!」


 その反動で血を吐き出す。

 同時に僅かに残った体の力までも抜けて行った。


「恵介くん……」

「結姫……」


 お互いの体を支え合うよにして寄り添う。


 ふと、影に覆われる。

 見上げるとサイクロプスの巨大な足の裏が見えた。


 ――踏み潰されるのか。


 さすがに避ける体力も気力もない。

 オレは結姫を強く抱きしめる。

 結姫もオレの胸に顔を埋めた。


 最後は結姫と一緒か。

 悪くない。


 ただ、心残りがある。


 ――ごめん。穂佳。

 見つけてやれなくて。


「……」

「……」


 だが、いつまで経ってもサイクロプスの足は降りてこなかった。

 完全に、足を上げたまま動きを止めていてる。


「なんだ?」


 サイクロプスが縦に真っ二つになった。

 地響きをたててサイクロプスが倒れる。


 そして、その後ろから男が現れた。


「いやあ、危ない危ない。危機一髪ってところだったかな」


 蒼い短髪と蒼い瞳。

 見た目は20代中盤くらいだろうか。

 身長はオレよりも若干高いくらい。

 真っ黒で、体にフィットした軍服のような恰好で、黒いマントを羽織っている。

 両手には、これまた漆黒の剣を持っていた。


 男はスタスタと、オレたちのところへ歩いてきた。


「任務お疲れ様」


 ニッと愛嬌のある顔で笑う。


「あんたは……?」

「あー。自己紹介したいところだけど、10分、待っててくれないかい?」

「10分?」

「そ。10分」


 男は暴れまわっているモンスターたちの群れを見て、そう言った。

 そして、そのモンスターたちの群れへと向かって行く。


 それはまさに虐殺だった。

 モンスターたちは反撃することはもちろん、逃げることもできずに次々と斬られていく。


 いや、それは処理されていくと言った方が近いだろうか。

 余裕の笑みを浮かべながら、鼻歌交じりでモンスターたちを屠っていく姿はまさに圧巻だった。


 驚くべきなのは、その男はスキルらしいスキルを全く使わずに剣技だけで切伏せていく。

 サイクロプスのような巨大な相手には、体を駆け上って首を刎ねる。

 ワイバーンのように空中にいる相手には、建物に駆け上ったり、剣を投げたりして落としていく。


 すげえ。


 そんな感想しか出てこない。


 10分後。

 男の言う通り、生きているモンスターは1体もいなくなっていた。


「んー。こんなもんか。少し期待しすぎたかな」


 なんだかつまらなそうな顔をして、剣を鞘に納める。


「どこの誰かはわからないが、助力、感謝する」


 リチャードが体を引きずりながら男の元へ向かい、頭を下げた。


 よかった。

 生きてたんだな、リチャード。


「君がリチャードくんか。魔王討伐まで、なかなかの記録を持ってるみたいだけど……」


 男は顎に手を当てながら、リチャードの体をジロジロと見ている。

 立っているのがやっというくらいボロボロのリチャードを見て、苦笑した。


「このくらいか。そもそも君は一対一で本領発揮するタイプだから、仕方ないよね」

「……」


 あまりの言いようにリチャードは顔をしかめるが、相手は命の恩人だからか、言葉を飲み込んだようだった。


「そうなると……君が一番の有力候補かな?」


 男が振り返り、オレの方を見てくる。


「へ? オレ?」


 結姫じゃなく?

 リチャード、結姫、オレの3人で言えば、オレが一番役に立ってなかったと思うんだが。


「おっと。約束通り自己紹介を……って思ったけど、説明してもらった方が楽か」

「え?」


 男の視線の先を追う。


「けいちゅけ少年、結姫くん、無事か!」


 支部長がこっちに向かって走ってくる。


「えーん! 私のケイスケが死んじゃうー」

「結姫さん、助けに来ましたよ!」


 支部長の後ろにはシャルとユーグ、それに10人ほどエージェントらしき人間がいる。


 助かったんだな。


 支部長の顔を見た瞬間、ようやく安堵感に包まれたのだった。

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