オレの方が重傷だったらしいが、退院は結姫よりも早かった。
昔からタフさが売りだったからな。
逆に入院する前よりも体が軽くなった気さえする。
退院前に、結姫の病室に寄っていく。
ベッドから起き上がれるようになってからは、割と頻繁に通っていた。
だが、退院してしまえば、しばらくは会えなくなる。
そう考えると、やっぱり寂しくなる。
「いい機会だから、結姫はゆっくり休めよ」
「ありがとう」
ベッドの上の結姫にはまだ多くの包帯が巻かれている。
下手をすれば死んでしまうほどの傷を結姫に負わせてしまった。
そう考えると、気が狂うほど自己嫌悪に陥る。
「この傷は恵介くんを守った証。私にとっては大切なもの」
「傷が大事って……昔の少年漫画のキャラじゃねーんだから」
「そうなの?」
首を傾げる結姫。
支部長やユーグなんかは変わらないと言っていたが、最近の結姫は随分と表情が豊かになった。
笑顔なんか、1ミリも口の端が上がってるんだぞ。
大進歩だ。
「私ね、毎日笑顔の練習してる」
「え? そうなのか? なんでまた」
「男の子は女の子の笑顔が好きって、書いてあったから」
オレが貸したラノベだろう。
確か、そんなようなことが書いてあったはず。
「そうだな。けど、オレは自然な結姫が好きだぜ。無理に変える必要はねーと思うけどな」
そう言った瞬間、結姫の顔が真っ赤になった。
これ以上ないほどに。
どういうわけか、結姫に刺さったらしい。
別段、キザなことを言ったつもりはなかったので、逆にこっちが恥ずかしくなる。
「恵介くんが、そう言うなら……」
「ああ。他の男なんか気にするな。世界の誰もお前を見なかったとしても、オレだけは結姫を見てるからな」
練習なんかしなくたって、結姫はこんなにも感情を出せるようになった。
十分だ。
無理なんかする必要はない。
「バカ……」
結姫が頭まで布団をかぶってしまった。
うーむ。新鮮。
まるでラノベのヒロインだ。
可愛いぜ、結姫。
「もう、もう、もう」
結姫が布団の中で足をバタバタとしている。
あ、そっか。
考えてることが読まれてるんだったな。
……いや、マジで、そこ、どういう原理なんだ?
「おっと、そろそろ時間だ。じゃあな、結姫」
すると結姫がひょこっと布団から顔を出す。
「頑張って」
「おう!」
グッと握り拳を固めてみせる。
「これ……」
さらに布団から右手を出した。
その手の上にはミサンガが乗っている。
「作ったの。……ミサンガなんて古いかもしれないけど」
「想いに古いもなにもないさ。サンキュー。結姫だと思って、付けさせてもらうぜ」
受け取って右手首に着ける。
さっきよりも顔を赤くした結姫が再び布団に潜ってしまった。
そして。
「また、任務でね」
「おう! 任務でな!」
オレは結姫との一時の別れを告げて、病室を出る。
つってもなー。
しばらく任務は受けられねーんだよな……。
***
「謹慎? オレがっすか?」
目が覚めてから3日後に、支部長からそう告げられた。
「あれはしゃーなくないっすか? やらなきゃやられてたんすから。それにあのモンスターたちはあの世界の存在じゃなないっすよね?」
「そっちじゃない」
「へ? どっちっすか?」
「王様だ。思いっきり、殴っただろ?」
「……あー」
そういえば、王様とも戦ったんだったな。
モンスターのインパクトがあり過ぎてすっかり忘れてたぜ。
「王様は完全にあの世界の人間だ。ルールに抵触するから、文句は言えないな」
「そ、そりゃそうっすけど……」
マジか。
見つかっちまったのか。
今まで、戦闘のことはバレたことなかったんだけどな。
スキルを使わなくても、バレるもんなのか。
今後は気を付けねーとな。
「とりあえずは3ヶ月の謹慎だ」
「3ヶ月も? 長いっすね」
「普通はもっと重い。無期限にされてもおかしくないくらいにな」
「え? そんなに?」
「それくらいタブーなんだ。その世界の存在に影響を与えるということは」
「……心に留めておきます」
「そうしたまえ」
「にしても、逆になんで軽くなったんすか?」
「私のおかげ……と言いたいところだが、シリル・ヴァレンタインの提言が大きいな」
「……ああ、エグゼキュタの」
「エグゼキュタのトップともなると、機関の中でも随分と顔が利くようになる」
「うわー。偉かったんすね、あの人」
スゲー強さだったけど、偉いって感じはしなかったな。
軽い感じだったし。
「偉いというより影響力が強大と言った方が正しいな」
なるほど。
権限はなくても、ゴリ押せるってことか。
強さって正義だなぁ。
「それで、だ。けいちゅけ少年」
「なんすか? 嫌な予感がするんすけど」
「そのエグゼキュタのトップが、君をご所望だ」
「……は?」
ということで、オレは強制特訓イベントに突入することになったのだった。