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4章 勇者の特訓をせよ

第73話 まさかの謹慎かよ

 オレの方が重傷だったらしいが、退院は結姫よりも早かった。


 昔からタフさが売りだったからな。

 逆に入院する前よりも体が軽くなった気さえする。


 退院前に、結姫の病室に寄っていく。

 ベッドから起き上がれるようになってからは、割と頻繁に通っていた。

 だが、退院してしまえば、しばらくは会えなくなる。

 そう考えると、やっぱり寂しくなる。


「いい機会だから、結姫はゆっくり休めよ」

「ありがとう」


 ベッドの上の結姫にはまだ多くの包帯が巻かれている。

 下手をすれば死んでしまうほどの傷を結姫に負わせてしまった。

 そう考えると、気が狂うほど自己嫌悪に陥る。


「この傷は恵介くんを守った証。私にとっては大切なもの」

「傷が大事って……昔の少年漫画のキャラじゃねーんだから」

「そうなの?」


 首を傾げる結姫。

 支部長やユーグなんかは変わらないと言っていたが、最近の結姫は随分と表情が豊かになった。

 笑顔なんか、1ミリも口の端が上がってるんだぞ。

 大進歩だ。


「私ね、毎日笑顔の練習してる」

「え? そうなのか? なんでまた」

「男の子は女の子の笑顔が好きって、書いてあったから」


 オレが貸したラノベだろう。

 確か、そんなようなことが書いてあったはず。


「そうだな。けど、オレは自然な結姫が好きだぜ。無理に変える必要はねーと思うけどな」


 そう言った瞬間、結姫の顔が真っ赤になった。

 これ以上ないほどに。


 どういうわけか、結姫に刺さったらしい。

 別段、キザなことを言ったつもりはなかったので、逆にこっちが恥ずかしくなる。


「恵介くんが、そう言うなら……」

「ああ。他の男なんか気にするな。世界の誰もお前を見なかったとしても、オレだけは結姫を見てるからな」


 練習なんかしなくたって、結姫はこんなにも感情を出せるようになった。

 十分だ。

 無理なんかする必要はない。


「バカ……」


 結姫が頭まで布団をかぶってしまった。


 うーむ。新鮮。

 まるでラノベのヒロインだ。

 可愛いぜ、結姫。


「もう、もう、もう」


 結姫が布団の中で足をバタバタとしている。


 あ、そっか。

 考えてることが読まれてるんだったな。


 ……いや、マジで、そこ、どういう原理なんだ?


「おっと、そろそろ時間だ。じゃあな、結姫」


 すると結姫がひょこっと布団から顔を出す。


「頑張って」

「おう!」


 グッと握り拳を固めてみせる。


「これ……」


 さらに布団から右手を出した。

 その手の上にはミサンガが乗っている。


「作ったの。……ミサンガなんて古いかもしれないけど」

「想いに古いもなにもないさ。サンキュー。結姫だと思って、付けさせてもらうぜ」


 受け取って右手首に着ける。


 さっきよりも顔を赤くした結姫が再び布団に潜ってしまった。


 そして。


「また、任務でね」

「おう! 任務でな!」


 オレは結姫との一時の別れを告げて、病室を出る。


 つってもなー。

 しばらく任務は受けられねーんだよな……。



 ***



「謹慎? オレがっすか?」


 目が覚めてから3日後に、支部長からそう告げられた。


「あれはしゃーなくないっすか? やらなきゃやられてたんすから。それにあのモンスターたちはあの世界の存在じゃなないっすよね?」

「そっちじゃない」

「へ? どっちっすか?」

「王様だ。思いっきり、殴っただろ?」

「……あー」


 そういえば、王様とも戦ったんだったな。

 モンスターのインパクトがあり過ぎてすっかり忘れてたぜ。


「王様は完全にあの世界の人間だ。ルールに抵触するから、文句は言えないな」

「そ、そりゃそうっすけど……」


 マジか。

 見つかっちまったのか。

 今まで、戦闘のことはバレたことなかったんだけどな。

 スキルを使わなくても、バレるもんなのか。

 今後は気を付けねーとな。


「とりあえずは3ヶ月の謹慎だ」

「3ヶ月も? 長いっすね」

「普通はもっと重い。無期限にされてもおかしくないくらいにな」

「え? そんなに?」

「それくらいタブーなんだ。その世界の存在に影響を与えるということは」

「……心に留めておきます」

「そうしたまえ」

「にしても、逆になんで軽くなったんすか?」

「私のおかげ……と言いたいところだが、シリル・ヴァレンタインの提言が大きいな」

「……ああ、エグゼキュタの」

「エグゼキュタのトップともなると、機関の中でも随分と顔が利くようになる」

「うわー。偉かったんすね、あの人」


 スゲー強さだったけど、偉いって感じはしなかったな。

 軽い感じだったし。


「偉いというより影響力が強大と言った方が正しいな」


 なるほど。

 権限はなくても、ゴリ押せるってことか。

 強さって正義だなぁ。


「それで、だ。けいちゅけ少年」

「なんすか? 嫌な予感がするんすけど」

「そのエグゼキュタのトップが、君をご所望だ」

「……は?」


 ということで、オレは強制特訓イベントに突入することになったのだった。

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