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第77話 思ったより雑だった……

「はい、あーん!」


 シャルがスクランブルエッグが乗ったスプーンをオレの口元に近付けてくる。


 凄い美味そうだ。

 実際、美味いんだろう。


 シリルも「美味いね、これ」と、もう三杯以上食べている。


「シャル。いい。取って来れなかったんだから、オレに食う資格はない」

「え? あーんは嫌? 口移しの方がいい?」

「話を聞いてくれ!」


 結局、あれから3時間かけてトライしたが、オレは卵を取ってくることができなかった。

 というより、そもそも卵のところまで辿り着くことさえもできない。


 リザードンもどきを50体倒したところで体力切れ。

 なんとか逃げ回って、洞窟の外に出てきたのだ。


 ……実際は途中でシャルが助けに来てくれたんだが。


「いい心がけだね。自分で食べる分は自分で確保する。これが自然の摂理だ」

「うっす……」


 同時に腹が大きく鳴る。


 腹減った。

 限界まで動いた後なんだから、当たり前だ。


 ヤバいな。

 このままだと、ドンドン状況が悪化していく。

 万全の状態でダメだったのに、今度は空腹状態で挑むことになる。


 ……これ、詰んだんじゃないのか?


「別にこの世界には、この卵しか食べ物がないわけじゃないよ」

「あ、そっか。……でも、異世界の生き物は殺せないから、植物系ってことっすよね? フルーツとか」

「いや。そんなことないよ」

「けど……」


 なんだ?

 任務じゃなければ、異世界の生き物でも殺していいってことか?

 いや、そんなわけないよな。


「その定義で言うと、卵だって生き物だよ」

「……確かに」

「それに全ての生き物を殺せないなら、無意識に踏み潰している虫だって気にしないとならない」


 極端に言えば、植物だって生き物ということになる。


 あれ?

 じゃあ、ルールってどうなってるんだ?


「実はその辺って割と雑なんだよ」

「雑……っすか?」

「そもそも、機関はその辺、どうやって違反者を見つけていると思う?」

「えーっと、スキルを使うかどうか……って言われてますよね?」

「そう思っている人は多いね。実際、スキルを使わなければそうそう引っかかることはない。けど、それだけじゃないんだ」

「その言い方だと、他にも条件があることっすよね?」

「まあ、俺もはっきりとした基準がわかっているってわけじゃないけどね」


 そう言って人差し指を立て、得意げな表情になるシリル。


「ダメージ量だよ」

「……ダメージ量?」

「たとえば、これがダメージ1だとする」


 シリルがオレの鼻先に触れるか触れないかくらいでパンチを放つ。

 少しだけ鼻の先がジンジンとする。


「で、10000くらいのダメージを与えた際に、機関のセンサーに引っ掛かる」


 その説明を聞くと、色々と腑に落ちる。


 オレがいつも素手でモンスターを倒しているときは、気絶させているのでそこまでダメージを与えていない。


「スキルを使えば、ダメージ量が跳ね上がるのでセンサーに引っ掛かるというわけっすね」

「ご名答」

「この卵なんかも、10000のダメージなんて入らないから、センサーにも引っかからない」

「俺の見立てでは、牛くらいなら全然平気だよ。スキルを使わなければね」

「やっぱり、スキルは関係あるってことっすか?」

「もちろん。スキルは異世界へ渡った際に発生するバグみたいなものだからね」


 バグ。

 スキルをそういう風に表現をする人は初めてだ。


「だから、機関は一際、スキルに対しての扱いには厳しい。もちろん、世界に与える影響が大きいというのもある。だけど、スキル自体が本来、世界にあるべき力じゃないんだ。異世界に渡らなければ目覚めなかった能力でもあるんだからね」


 確かにスキルの力は強大だ。

 その世界の勢力図を大きく変えるほどに。


「逆に言うと、スキルさえ使わなければ、意外と異世界でのやれることはかなりある。タイミングによれば殺人でも感知されない場合もある」

「え?」


 それは根底から覆る話だ。

 異世界では殺しは絶対にやってはいけない。

 これは最初に、徹底されて教えられる。


 まあ、そもそも殺しなんてやろうとは思わないが。


「牛を殺してもセーフなんだ。牛よりも人間の方が脆いだろ?」

「……その表現はどうかと思いますが」


 牛を殺せる一撃であれば、人間だって殺せるはずだ。


「もちろん、知的な生物に関しては監視は厳しくしているから、よほど運がよくない限り見つかるけどね」


 シリルの、その言い方から、これまでも多くのエージェントをその手にかけてきたんだろうなと感じ取れる。


「結局、何が言いたいかというと、牛くらいの大きさの動物なら、食べても大丈夫ってこと」

「あっ!」


 オレは立ち上がり、走り出す。


「ちょっと、食料調達してきます」

「あ、シャルも行くー!」


 ちなみにシャルには手伝うことを禁止したら、抱き着いて着たり迫ってきたりして、単なる邪魔にしかならなかった。

 そのせいもあり、牛程度の大きさの動物を見つけるのに苦労して、結局、飯にありつけたのは3時間後になってしまった。

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