3回目のトライ。
ようやく卵があるところまで到着した。
洞窟の奥にある部屋の中に無数の卵が並んでいる。
そこから1つ、手に取り脇に抱えて、部屋から出た。
「よし、後は持って帰……」
目の前にはリザードンもどきが20体ほどがズラッと並んでいる。
「……ちょっと、通して貰えませんかね?」
元々釣り上がっている目が、さらに釣り上がって赤く光っている。
どうやら、またもブチ切れているようだ。
「ギィシャアアアーーー!」
「おわあああ!」
***
「うーん。やっぱ、帰りがしんどいな」
多めに採っておいたフルーツを食べながら、頭の中で反省会を行う。
手が使えない以上に、卵を割らないというのがムズイな。
卵を庇って動くから重心もズレるし、避ける動作が大きいせいで動きに無駄ができる。
勝負はどれだけ動きに無駄を作らずにリザードンもどきを倒すか、だ。
ただ、左腕が使えないのが痛い。
卵を抱えているから、必然的に右腕だけで戦うことになる。
蹴りも使いたいところだけど、どうしてもその場で足が止まるからな。
駆け抜けるのがワンテンポ遅れる。
うーむ。どうしたものか。
「ケイスケ、すごいねー!」
シャルがニコニコしながらジッとオレを見ている。
「ん? なにがだ?」
「怪我してない」
「まあ、3回目だしな。リザードンもどきの動きは大体読めるようになったんだ」
「さっすが、ケイスケ!」
いきなり抱き着いてくるシャル。
巨乳がグッと顔に押し付けられる。
嬉しいよ。そりゃ、な。
嬉しくない男はいないだろう。
けど、今は反省会を邪魔しないでくれ。
「恵介は考え方がズレてる」
横で卵料理を食べていたシリルが、ビッとスプーンでオレを差してくる。
「……ズレてるって、どういうことっすか?」
「敵を倒そうとしてるでしょ」
「え? そりゃ、まあ……。襲ってくるんで」
「いいかい? 目的は卵を取って来ることだ。敵を倒すことじゃない」
「それはわかってますけど、倒さないと進めないんすよ」
「ホントにそう?」
ニッと笑った後、再び料理を食べ始める。
確かにシリルの場合は倒さずに、全て攻撃を避けて進んでいた。
「いや、オレはシリルほど化け物じゃないんで、無理っすよ」
「恵介は自分を過小評価しすぎだな。できるはずだよ、俺と同じこと」
「……過大評価しすぎっす」
「3週間前とはレベルが違うんだよ。最初の組手ではその場から動かなかったけど、今は3歩ほど動かないと攻撃を捌けなくなってるんだからさ」
「あんま変わってないっすよ、それ」
まさに五十歩百歩だ。
「んー。まあ、いいや。じゃあ、一つレベルを落として考えてみよう。敵を倒さなくても、動きさえ止めれればいいんだ。その間に抜けてしまえばいい」
「動きを止めるって……スキルじゃないんすから……」
いや、待て。
卵を持って帰るとき、オレは無駄な動きのせいで、駆け抜けることができなかった。
つまりはその場に止まってたってことだ。
それを逆にすりゃいい。
リザードンもどきに無駄な動きを『させれば』いいってわけだ。
「気付いたみたいだね。やっぱ、恵介は優秀だよ」
「そりゃ、シャルの旦那さんだもん!」
「んん? 恵介の彼女は結姫って子じゃなかったっけ?」
「結姫ちゃんは愛人」
「ほうほう。今の子は進んでるんだねぇ」
「全っ然違う!」
やめてくれ。
結姫にぶっ殺される。
チラリと右手のミサンガが視界に入る。
……結姫、もう退院したよな。
早く会いたい。
そっとミサンガに手を触れると、なんだか心が温かくなるのを感じた。
***
「ギシャア!」
リザードンもどきが爪で引っ掻いて来る。
それを紙一重で避けて、足を引っかける。
「ギ?」
その場でたたらを踏むリザードンもどき。
その間にその脇を抜ける。
そして、前にいたリザードンもどきの肩をトンと押す。
すると横にいたリザードンもどきを巻き込んで倒れた。
なるほど。
段々、コツがつかめてきたぞ。
相手の重心を崩せば、簡単に倒すことができる。
柔道の漫画で見たことあるけど、あれか。
これは面白い。
オレはリザードンもどきを気絶させることなく、進んでいく。
そして卵がある部屋に到着する。
かなり早いペースだ。
前回の5分の1くらいの時間しか経ってない。
部屋に入り、卵を一つ手に抱えてから出る。
「ギギギギ……」
あれぇ?
なんか多くないか?
前回の3倍くらいいるんだが……。
あっ! そっか!
気絶させてないから、その分、集まってきてるのか。
こりゃ、かなりのハードモードだぞ。
……けど、まあ、やるしかないか。
オレは卵を抱えながら、リザードンもどきの群れの中に突っ込んでいくのだった。