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第78話 もう少しなんだけどな

 3回目のトライ。

 ようやく卵があるところまで到着した。


 洞窟の奥にある部屋の中に無数の卵が並んでいる。

 そこから1つ、手に取り脇に抱えて、部屋から出た。


「よし、後は持って帰……」


 目の前にはリザードンもどきが20体ほどがズラッと並んでいる。


「……ちょっと、通して貰えませんかね?」


 元々釣り上がっている目が、さらに釣り上がって赤く光っている。

 どうやら、またもブチ切れているようだ。


「ギィシャアアアーーー!」

「おわあああ!」


 ***


「うーん。やっぱ、帰りがしんどいな」


 多めに採っておいたフルーツを食べながら、頭の中で反省会を行う。


 手が使えない以上に、卵を割らないというのがムズイな。

 卵を庇って動くから重心もズレるし、避ける動作が大きいせいで動きに無駄ができる。


 勝負はどれだけ動きに無駄を作らずにリザードンもどきを倒すか、だ。


 ただ、左腕が使えないのが痛い。

 卵を抱えているから、必然的に右腕だけで戦うことになる。


 蹴りも使いたいところだけど、どうしてもその場で足が止まるからな。

 駆け抜けるのがワンテンポ遅れる。


 うーむ。どうしたものか。


「ケイスケ、すごいねー!」


 シャルがニコニコしながらジッとオレを見ている。


「ん? なにがだ?」

「怪我してない」

「まあ、3回目だしな。リザードンもどきの動きは大体読めるようになったんだ」

「さっすが、ケイスケ!」


 いきなり抱き着いてくるシャル。

 巨乳がグッと顔に押し付けられる。


 嬉しいよ。そりゃ、な。

 嬉しくない男はいないだろう。

 けど、今は反省会を邪魔しないでくれ。


「恵介は考え方がズレてる」


 横で卵料理を食べていたシリルが、ビッとスプーンでオレを差してくる。


「……ズレてるって、どういうことっすか?」

「敵を倒そうとしてるでしょ」

「え? そりゃ、まあ……。襲ってくるんで」

「いいかい? 目的は卵を取って来ることだ。敵を倒すことじゃない」

「それはわかってますけど、倒さないと進めないんすよ」

「ホントにそう?」


 ニッと笑った後、再び料理を食べ始める。


 確かにシリルの場合は倒さずに、全て攻撃を避けて進んでいた。


「いや、オレはシリルほど化け物じゃないんで、無理っすよ」

「恵介は自分を過小評価しすぎだな。できるはずだよ、俺と同じこと」

「……過大評価しすぎっす」

「3週間前とはレベルが違うんだよ。最初の組手ではその場から動かなかったけど、今は3歩ほど動かないと攻撃を捌けなくなってるんだからさ」

「あんま変わってないっすよ、それ」


 まさに五十歩百歩だ。


「んー。まあ、いいや。じゃあ、一つレベルを落として考えてみよう。敵を倒さなくても、動きさえ止めれればいいんだ。その間に抜けてしまえばいい」

「動きを止めるって……スキルじゃないんすから……」


 いや、待て。

 卵を持って帰るとき、オレは無駄な動きのせいで、駆け抜けることができなかった。

 つまりはその場に止まってたってことだ。


 それを逆にすりゃいい。

 リザードンもどきに無駄な動きを『させれば』いいってわけだ。


「気付いたみたいだね。やっぱ、恵介は優秀だよ」

「そりゃ、シャルの旦那さんだもん!」

「んん? 恵介の彼女は結姫って子じゃなかったっけ?」

「結姫ちゃんは愛人」

「ほうほう。今の子は進んでるんだねぇ」

「全っ然違う!」


 やめてくれ。

 結姫にぶっ殺される。


 チラリと右手のミサンガが視界に入る。


 ……結姫、もう退院したよな。

 早く会いたい。


 そっとミサンガに手を触れると、なんだか心が温かくなるのを感じた。



 ***



「ギシャア!」


 リザードンもどきが爪で引っ掻いて来る。

 それを紙一重で避けて、足を引っかける。


「ギ?」


 その場でたたらを踏むリザードンもどき。

 その間にその脇を抜ける。


 そして、前にいたリザードンもどきの肩をトンと押す。

 すると横にいたリザードンもどきを巻き込んで倒れた。


 なるほど。

 段々、コツがつかめてきたぞ。

 相手の重心を崩せば、簡単に倒すことができる。

 柔道の漫画で見たことあるけど、あれか。

 これは面白い。


 オレはリザードンもどきを気絶させることなく、進んでいく。

 そして卵がある部屋に到着する。


 かなり早いペースだ。

 前回の5分の1くらいの時間しか経ってない。


 部屋に入り、卵を一つ手に抱えてから出る。


「ギギギギ……」


 あれぇ?

 なんか多くないか?

 前回の3倍くらいいるんだが……。


 あっ! そっか!

 気絶させてないから、その分、集まってきてるのか。


 こりゃ、かなりのハードモードだぞ。


 ……けど、まあ、やるしかないか。


 オレは卵を抱えながら、リザードンもどきの群れの中に突っ込んでいくのだった。

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