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第9章: レンの盗難

一日中、葵は奇妙な雰囲気を感じていた。光との勝負に勝って以来、多くの生徒たちが彼女に興味を持ち、こそこそと噂をしていた。無視しようとしたが、どうしても落ち着かなかった。


最後の授業が終わると、葵は素早く荷物をまとめ、教室を出ようとした。だが、廊下を歩いていると、馴染みのある声が彼女を呼び止めた。


—「葵ちゃん~!待って!」


振り向くと、学園でも特に人気のある生徒の一人、玲奈が輝く笑顔で駆け寄ってくるのが見えた。


—「あ、玲奈… 何か用?」

驚いた葵は戸惑いながら尋ねた。


玲奈は嬉しそうに手を合わせると、目を輝かせて言った。

—「光との勝負、すごかったよ!おめでとう!」


葵は一瞬まばたきをした。


—「え… ありがとう…?」


玲奈は楽しそうに笑った。

—「そんなに謙遜しなくてもいいのに!あんな風に魔法を使えるなんて、本当にすごいよ。よかったら、少しだけでも教えてくれない?」


葵は思わず頬を赤らめた。今まで誰かに魔法を褒められたことはほとんどなかった。


—「わ、私、そんなに上手くないし…」


—「そんなことないって!ねえ、一緒に歩かない?」


玲奈の無邪気な笑顔に押され、葵はしぶしぶ頷いた。


二人は歩きながら話をした。玲奈は葵の戦い方や戦略、そして「人形召喚魔法」について興味津々の様子で質問を重ねた。葵はどこまで話すべきか迷いながら、慎重に言葉を選んだ。


その間、葵は気づいていなかった。

彼女のリュックに、そっと忍び寄る影があることを…。


玲奈が軽く笑った瞬間、何かが微かにリュックを引っ張る感触があった。

ほんの僅かな違和感。


しかし、それに気づいたのは遅すぎた。


—「…待って!」


葵は急いで振り返った。


だが、すでにリュックのファスナーはわずかに開いており…。

レンが消えていた!


葵の心臓が大きく跳ねた。


—「レン!」


慌てて辺りを見渡す。しかし、生徒たちが行き交う廊下では、誰が盗んだのか見極めるのは難しい。


玲奈が心配そうに顔をしかめた。

—「どうしたの?」


葵は答えなかった。必死に周囲を探し続けたが、怪しい人物は見当たらない。


(誰かが持っていった…!? そんなはずない… どうやってこんなに簡単に…!?)


歯を食いしばり、葵は駆け出した。通行人にぶつかりながらも構わず進む。


—「葵!」

玲奈の声が聞こえたが、立ち止まる余裕はなかった。


(誰がやったか分からないけど… 絶対に取り戻さなきゃ!)


しかし、その時。



廊下の陰に潜む人物が、レンを手に持ちながら、悪意のある笑みを浮かべていた。


—「さて…お前が何なのか、調べさせてもらおうか…」


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