一日中、葵は奇妙な雰囲気を感じていた。光との勝負に勝って以来、多くの生徒たちが彼女に興味を持ち、こそこそと噂をしていた。無視しようとしたが、どうしても落ち着かなかった。
最後の授業が終わると、葵は素早く荷物をまとめ、教室を出ようとした。だが、廊下を歩いていると、馴染みのある声が彼女を呼び止めた。
—「葵ちゃん~!待って!」
振り向くと、学園でも特に人気のある生徒の一人、玲奈が輝く笑顔で駆け寄ってくるのが見えた。
—「あ、玲奈… 何か用?」
驚いた葵は戸惑いながら尋ねた。
玲奈は嬉しそうに手を合わせると、目を輝かせて言った。
—「光との勝負、すごかったよ!おめでとう!」
葵は一瞬まばたきをした。
—「え… ありがとう…?」
玲奈は楽しそうに笑った。
—「そんなに謙遜しなくてもいいのに!あんな風に魔法を使えるなんて、本当にすごいよ。よかったら、少しだけでも教えてくれない?」
葵は思わず頬を赤らめた。今まで誰かに魔法を褒められたことはほとんどなかった。
—「わ、私、そんなに上手くないし…」
—「そんなことないって!ねえ、一緒に歩かない?」
玲奈の無邪気な笑顔に押され、葵はしぶしぶ頷いた。
二人は歩きながら話をした。玲奈は葵の戦い方や戦略、そして「人形召喚魔法」について興味津々の様子で質問を重ねた。葵はどこまで話すべきか迷いながら、慎重に言葉を選んだ。
その間、葵は気づいていなかった。
彼女のリュックに、そっと忍び寄る影があることを…。
玲奈が軽く笑った瞬間、何かが微かにリュックを引っ張る感触があった。
ほんの僅かな違和感。
しかし、それに気づいたのは遅すぎた。
—「…待って!」
葵は急いで振り返った。
だが、すでにリュックのファスナーはわずかに開いており…。
レンが消えていた!
葵の心臓が大きく跳ねた。
—「レン!」
慌てて辺りを見渡す。しかし、生徒たちが行き交う廊下では、誰が盗んだのか見極めるのは難しい。
玲奈が心配そうに顔をしかめた。
—「どうしたの?」
葵は答えなかった。必死に周囲を探し続けたが、怪しい人物は見当たらない。
(誰かが持っていった…!? そんなはずない… どうやってこんなに簡単に…!?)
歯を食いしばり、葵は駆け出した。通行人にぶつかりながらも構わず進む。
—「葵!」
玲奈の声が聞こえたが、立ち止まる余裕はなかった。
(誰がやったか分からないけど… 絶対に取り戻さなきゃ!)
しかし、その時。
廊下の陰に潜む人物が、レンを手に持ちながら、悪意のある笑みを浮かべていた。
—「さて…お前が何なのか、調べさせてもらおうか…」