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車のタイヤに縛り付けられていた猫「石垣島子」

 2019年7月7日。

 1匹の飼い猫が、飼い主に棄てられた。

 石垣島では定番みたいになっている、緑地公園への遺棄ではない。

 その猫は、車通りの多い市街地にある駐車場に置き去られた。

 箱に詰めて置かれたわけではない。

 飼い主は、猫の首輪にリードをつけ、車のタイヤに縛り付けて立ち去った。

 その車は、飼い主の所有する車ではない。

 石垣市役所の公用車。

 いつ誰が動かすか分からない車に、猫は縛り付けられた。



 車の近く置かれた、餌と水と猫トイレ。

 何人かが通りすがりに見ているけれど、なんでこんなところに置いてあるんだろう? と思った程度。

 猫の姿は全く見えなかったし、鳴き声もしなかった。

 あの日、1人の女性が車のタイヤに巻き付いたリードに気付かなければ、猫は動き出した車に轢かれていただろう。


「このリード、どうしてタイヤに付けてあるの?」


 女性は付近にいた人々に声をかけた。

 怪訝に思った人々が車に群がり、リードの先を辿って車の下を覗き込んだ。



 リードはタイヤから車の底部へと続いている。

 しかし、その先にいる動物の姿は見えない。


「引っ張ってみよう。逃げたらゴメン」


 そう言って、1人がリードを引っ張った。

 もしもリードが切れたり、首輪が抜けたりしていたら、猫は逃げて捕まらなかった筈。

 ズルズルッと引きずり出された猫は、別の1人が持ってきたケージに詰め込まれた。


「遺棄犯罪だから、警察に届けて」


 頼まれた1人が警察に届けに行き、翌日に猫は保健所に収容された。

 遺棄犯罪者である飼い主は、未だに捕まっていない。



 2019年当時、石垣島には保護団体は存在していない。

 保健所に収容された猫は、飼い主が名乗り出るか里親希望者が現れなければ、3週間後に殺処分と宣告された。


 猫を助けたいと思ったボランティアさんが、ブログで呼びかけた。

 そのブログを見た拡散力の強いブロガーさんが、リブログで多くの人々に広めてくれた。

 リブログされたそれを見て、猫を助けるために保健所へ引き取り希望の連絡をしたのが、後に多くの石垣島の猫たちがお世話になる、東京のボランティアYKさん。


 八重山保健所の収容動物が東京へ行くには、譲渡ボランティアを経由する必要がある。

 当時の職員Hさんが、猫の東京行き協力を依頼したのが、譲渡ボランティアであり猫の個人保護主でもあった筆者。

 保健所でノミダニ駆除・検便駆虫・ウイルス検査・ワクチン接種・避妊手術まで全て済ませた後、ボランティア譲渡申請書を提出してレスキュー。

 空輸日までの1週間ほど、猫は我が家の保護部屋に滞在した。


 新石垣空港 (ISG)から羽田空港 (HND)までの距離は約1,938 km。

 飼い主に棄てられ、事故死や殺処分を回避して、海の向こうの新天地へと旅立った猫。

 彼女は「石垣島子」という仮名をもらい、東京の譲渡会に参加した。

 何度目かの譲渡会で家族になってくれる人に出会い、今は愛情を注がれながら穏やかに暮らしている。



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