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里親さんより年上の犬「ヘレン」

 2022年7月21日。

 裁判所の差し押さえ物件に取り残されていた老犬が我が家にやってきた。

 7月中はまだ飼い主に所有権があり、放棄するか否かを確認するまでは譲渡せずに保護してほしいというもの。

 飼い主はマトモに犬の世話ができなかったようで、業者が建物内に立ち入ってみると、毛玉まみれで薄汚れたモップのような状態になったミニチュアダックスが、歩くこともできずに蹲っていたという。


 荒れ果てた家の中から助け出された犬は、動物病院へ直行で健康診断を受けた。

 血液検査結果はフィラリア陰性、成分状態も高齢にしてはそれほど悪くないとの診断。

 かなりの高齢で、20歳以上かもと獣医師は後に語っている。

 その病院はトリミング室を併設しており、耳の中の掃除や身体を覆う毛玉を全て取り除いてくれたので、我が家に預けられた頃にはスッキリした毛並みに仕上がっていた。


 超高齢のその犬は、全ての歯が抜け落ちていた。

 白内障で、視力も失われている。

 耳も聴こえないようで、音に全く反応しない。


 その三重苦から、歴史上の人物を連想し「ヘレン」という仮名をつけた。

 名前の由来になった人は女性だけど、犬は未去勢オス。

 高齢すぎてもう手術不可能なので、ヘレンは未去勢のまま里親募集をかけた。


 1日の大半を眠って過ごすヘレン。

 前エピソードの「チワ爺」よりも年上かもしれない。

 飼い主が誰か分かっている犬なのに、年齢不明とはどういうことか。

 もしかしたら、成犬になってから飼い始めたのかもしれない。



 ヘレンの一番の幸運は、素晴らしい里親さんと出会えたこと。

 2022年12月4日、ヘレン正式譲渡。

 里親さんは、二十歳の若さで老犬を引き取り希望する稀有な人。

 たぶん、ヘレンよりも年下の筈。

 保護犬よりも里親さんの方が年下なんて初めてだ。

 ヘレンの名前はそのまま、正式な名前となっている。


 譲渡後も時々ヘレンの様子を画像や動画で報告してくれた里親さん。

 引っ越しで島を離れた後も、ヘレンとの日々を画像で報せてくれた。

 ヘレンは先住猫たちにも愛されていたらしい。

 くっついて寝たりグルーミングしたり、もはや溺愛といっていいくらい。

 幸せな余生は10ヶ月ほど続いた。



 2023年10月15日、ヘレン永眠。

 里親さんと暮らした期間は1年に満たないけれど、たっぷり愛情を注いでもらえたから、満足して逝けた筈。


 終わりよければ全てよし


 ヘレンの犬生は、まさにそれだと思う。

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