僕はこれまで多くの生き物と接してきたけれど、その死の瞬間に立ち会った回数は少ない。
仕事で家を空ける時間が10時間以上になるため、ずっとは傍にいられないからだ。
けれどルネは、まるで休みの日を狙ったかのように息を引き取った。
2023年7月24日13時08分
看取り保護猫ルネは、静かに眠るように逝った。
僕が2連休に入る前夜から、危篤状態になった老猫ルネ。
連休中、どこへも出かけず見守りを続けた。
初日は夜も寝ずに見守り、2日目はたまに寝落ちながらの見守り。
ルネはずっと横たわって寝たままかと思えば時折目を覚まし、こちらを見て何か言うように口を開けた。
「そこにいる? 傍にいてくれてる?」
そう言っているように感じた、ルネの声無き言葉。
老衰で命の終わりが近付く時、彼女が最期に望んだのは、傍にいてもらう事。
「傍にいるよ」
その度に話しかけて、撫でてあげた。
そうすると安心したように目を閉じるのを切なく思いながら。
また棄てられたりしないか、ルネは心のどこかに不安が残っていたのかもしれない。
保護期間中、ケージを開ければいつもすり寄って来て離れなかったルネ。
危篤状態になる直前までスリゴロだった。
2022年11月5日、飼い主に公園へ置き去りにされた三毛猫。
棄てられて間もない頃は、公園の公衆トイレに篭って怯えていた。
オリコンニュースにもなった、5年間で500匹以上の猫が棄てられた石垣島の緑地公園。
2022年にそこへ棄てられた猫176匹。
ルネはその中の1匹だ。
遺棄から半月後の11月21日、ルネはゴハンを食べずガリガリに痩せてしまい、我が家で保護する事になった。
酷い下痢で、頻繁に水様便をする。
食欲は全く無く、ちゅーるすら食べようとしない。
病院へ連れて行って検査をした際に、高齢であることとエイズキャリアであることが判明した。
体重は1.3キロしかない。
補液して命を繋ぎ、検便で虫卵が検出されないことから細菌性の腸炎かもしれないとのことで、抗生剤を注射してもらった。
抗生剤では下痢は治らず、念のためプロフェンダー(内部寄生虫総合駆除薬)をつけたら治ったので、虫卵が便の中に混じって出てこない虫がいたのかもしれない。
ちゅーるは食べないけど、病院で買ってきたAPPE(アペ)という高嗜好性・高栄養の液状食だけは食いつきが良かった。
保護開始から約8ヶ月。
ルネはAPPE以外も食べるようにはなったものの、食が細く食べる量が少ないので、エナジーちゅーるや仔猫用シーバなどをあげていた頃のこと。
7月23日午前1時過ぎ、仕事から帰って様子を見たらルネはフラフラになっていて、ケージを開けるとこちらへ少し歩きかけてパタンと倒れた。
水入れの水を新しくしても、全く飲まない。
いつもなら水を替えてあげるとすぐ飲むのに。
体重は保護開始日よりも減っていた。
飲まず食わずなので補液してもらったものの、予後は良くなかった。
ちょうど仕事が休みの2連休で、2晩つきっきりで見守った後、明日は仕事だという日の夜。
留守中にルネが独りで逝ってしまうのは忍びないので、自営業の方に預かりをお願いした。
しかしルネは、他所へ預けられる前に命を終えた。
「預けなくていいよ。そろそろ逝くわ」
まるでそう言うように、連休最終日にルネは息を引き取った。
眠った状態からスーッと、魂が抜け出たように静かに呼吸が止まった。
あんなにも安らかに穏やかに、猫が息を引き取るのを見たのは初めてだ。
危篤状態になってから逝く瞬間まで、ルネは少しも苦しむ様子が無かった。
病院では特に何も病気らしいものは見つからず、かなりの高齢猫みたいだったから老衰による命の終わりなんだろう。
ルネの魂は、虹の橋のたもとへ向かった。
動物たちの魂は、虹の橋のたもとで大切な人を待つといわれている。
彼女は虹の橋のたもとで誰を待つのだろうか?
飼い主はなぜ、余命8ヶ月の老猫を棄てたのか。
死の間際まで人の傍にいる事を望む、健気な猫なのに。
なぜ残り僅かな月日を、寄り添ってあげなかったのか?
動物たちにも心がある。
棄てられたら、悲しいんだ。
どうか最期の時まで、傍にいてあげてほしい。