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第13話 音声配信のGURI


 大学が夏休みの間の大雅の日課といえば、来学期に備えて勉強をしておくことと、多少のバイト。これは、運送業と居酒屋のバイトにしているが、超絶繁忙期の真っ只中、コミケの為に休んだので、何か言われるかなとは思ったが、皆『実に快く』送り出してくれたので、いくらか申し訳ない気分になって、菓子折を置いた。東京名物のお菓子で、最寄り駅のキヨスクで購入したモノだが、とりあえず、何も指摘されなかったので、大雅としては胸をなで下ろした。


 そして、最近は、それに加えて、GURIのSNSのチェックが日課になった。


 それほどSNSの投稿は多いわけではないが、たまに『ランチ』と、オシャレ目なカフェで撮ったとおぼしき写真が投稿される。サラダがメインのランチプレートが多い。常に肉ばかり食べている大雅とは、正反対だ。


(草ばっかり食ってる感じだもんな……)

 そうでなければ、あの体型は保つことは出来ないのかもしれない。


 身長は高かったが、身体は薄くて細かった。


(綺麗だったなあ……)

 大雅は、GURIの姿を思い出す。美しい翠玉の瞳に、淡い金髪。長い睫。それは、サティシャの姿なのだが、喩えようもなく美しかった。


「もう一回……会ってみたいな……」

 もう一度、間近で見てみたい。GURIは、あの時に男に絡まれたことは覚えているだろうが、おそらく、大雅の事など覚えていないから、また、近くで見られれば嬉しい。写真を撮らせて貰ったら、待ち受けにしてずっと眺めているだろう。


 今は、悪いと思いながらも、GURIがSNSに上げていた写真を勝手にダウンロードして、待ち受けにしている。やはり、『天雨』のサティシャの姿のものだった。


「あっ……」

 GURIのSNSに思わぬ告知が掲載されていた。


『22:00から音声配信します』


「うおおおおっ!!! 音声配信っ!!」

 おもわず声が出てしまったのを、慌てて口許を押さえる。GURIが、音声配信をするのに立ち会ったことはなかったので、興奮してしまったのだった。


「……すげー、リアタイ出来るじゃねぇかっ!!」

 22時まではあと、一時間と少し。どれくらい配信をするつもりなのか解らないが、万全の体勢で配信を聞きたい。


(どうする、フロ入るか……?)

 しかし、先日の様に、兄たちが入っていると、面倒だ。だが、あまり遅い時間になると、家にいる舎弟たちの入浴時間が遅れることになる。家住みになっている舎弟たちがフロを使うのは、大雅の後というのが、暗黙の決まりだった。


 大雅の部屋から、フロの様子が分かれば良いのだが……。


(いや、考えても仕方がネェっ!)

 まずはフロ。その後、精進潔斎して、GURIの配信を待つべきなのだ。

 そうと決まれば話は早い。着替えを小脇に抱えて、大急ぎでフロへ向かって湯を使うことにした。




 今回は、タイミングが良かったらしい。

 途中、どうにものぼせ上がったような顔をしている兄とすれ違ったので、「あれ、兄貴、今フロ?」と聞いてみると、「ああ……ちょっと前に入った所だよ。……お湯は、今、桐月とうげつが張り直したところだから」などというので、「ふーん、じゃ、俺、使わせて貰うわ」とフロをスムーズに使うことが出来たのだった。


 兄たちが、いちゃついていた後かも知れない……とは一瞬思ったが、もはや気にしないことにした。


 とりあえず大急ぎでフロを終え、そして、そのまま部屋へ戻る。

 ざーっと髪を乾かす。普段、後ろに流しているので気にならないが、整髪剤が落ちてしまうと、前髪で完全に顔が隠れてしまうので、ヘアバンドをとりだして、床に座り。机の上に、スマートフォンをおいて、SNSを開いた。音声配信のリンクが貼られていたので、そこから入る。


 開始まで、あと5分。


(やべ、緊張する……)

 深呼吸をして、大雅は、時間が来るのを待つ。一秒、時間が経過するのが、やけにゆっくりと感じた。瞑目して、放送を待つ。心音が、うるさかった。


 やがて、22時が訪れる。

(……来た……)



『こんばんは。GURIです……うわ、こんなに入ってくれたんですか? あ、いつも来てくれる方、沢山居るみたい。いつもの方も、新規の方もありがとう』


 チャット欄が、ざーっと流れて行く。ものすごいコメント数だ。大雅も、なんとか『初参加です。』とだけ入力したが、投稿したコメントは自分で視認も出来なかった。


 GURIは、顔出しをせず、この間の、サティシャのコスプレをした写真だけが表示されている。


『わー、コメントすご……。えーと『最近、新規の方多いですよね?』……うん。わかります。なんか、この間の即売会で『天雨』のサティシャのコスをやったと思うんですよ。それが、評判が良かったのかな。綺麗に写真撮って下さった方も居たみたいで。『天雨』人気ですからね。

 この間は、『天雨』の他に、『SPLASH!!』の高宮アキトのコスもやったんですけど、こっちも、好きですね』


『SPLASH!!』はアニメだった……と大雅は記憶している。

(確か、3ホールを埋めた、人気アニメ……ライバルの幸手ユイトが攻めで高宮アキトが受け……)


 名前だけ知っている人気ジャンルの情報は、大体、二次創作のカップリングで出てくるのが、腐男子『あるある』だ。



『……『受けが多いですよね』……あはは、確かに、そうかも。ビジュアル的に、やってみたいなと思うのは、受けの方ですね……って、アキトくんは、ウケかどうかわかんないですけどね。でも、たしかに、アキト受けの本は買っちゃいますよね』


 GURIが笑っている。その声を聞いて、(GURIの声って、好きだなあ……)と大雅はぼんやりと聞き惚れていた。



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