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第14話 コメント欄は荒れがちになる


(GURIも、同人誌とか、買うんだな……)

 GURIの笑い声に、なんとなく、大雅はドキッと胸が跳ねた。


 あの時、腐男子か、と聞いてしまったが、確かに、腐男子でなくとも、同人誌くらいは買うだろう。


 それに、BL本も読むだろう。『天雨』のコスをやっているくらいなのだから……。原作に対する愛情と理解がなければ、あの、見事なコスプレ姿はないはずだった。




『……『BL絡みでやって下さい?』

あ、これはですね。良いですね。この間、写真をアップしたじゃないですか。その時は……コスイベで一緒になった、聖夜さんとスタジオで撮ってもらったんですけど、聖夜さんが、本当にかっこよすぎて……。


『ドキドキしました』……?

ああ、俺もドキドキした! 聖夜さんとガチで接触多くて……、聖夜さんファンの方が居たら、申し訳ないんだけど、本当に、かっこよくて、間近で見てもあの感じなんですよ。また、ご一緒して下さいとかは、俺の方からは畏れ多くて言えないです。


 えーと『次のイベントは来ますか?』

……あー、ごめんなさい。次のイベントは、行かないです。池袋のですよね? 丁度、その日、家で大事な用事があって、外せないです。


 だから……次のイベントって10月の末の池袋かな。うん、それまでコスできないのも、辛いんだよね。その間は、衣装とか、もうちょっとブラッシュアップしようかなと思ってます。


 うん、暫く、サティシャをやろうかなと。

 えーと『『天雨』新刊、10月末ですよ!』

えっ! 知らなかった!! 予約しなきゃ』


 次々と『予約サイトの特典情報』が上がってくる。大雅でも知らなかったショップの、特典情報が得られたのは思わぬ収穫だ。


 この間の『絡み』のあるBLコスプレは、確かに、ドキドキしてテンションが上がったが、聖夜というコスプレイヤーには、何とも言えない嫉妬心が湧き上がってくる。


(キスの距離感ぐらいの写真もあったしなあ……)

 そもそも、18禁BL同人誌を買う大雅は、キスシーンくらいではひるみはしないし、どちらかというと、『もっとヤレ』という立場だったか、GURIのキスシーンは、なんとなく、見たくない。


(ちょっと、知ってる人……だから、かなあ)

 とは思うが、なんとも、腹の底が、もやもやする感じがするだけだ。



『すごい、今回、特典沢山有るんだね。電子特典とかもあるんだ……電子特典が、特別番外編なのって、これは電子も買うしかないかな……』


 GURIが、小さく呟く。コメント欄に『新刊の購入代の足しにして下さい!』と投げ銭が飛び始める。


『わっ……ちょっと……、そんなに投げ銭を貰わなくても、大丈夫だから……』


 けれど、コメント欄はエスカレートして行く。

『GURIのコスを見るのが、生きがいだから』『少しくらい投げ銭させて下さい』『GURI可愛い。名前、コールしてくれると嬉しいです』『GURI、顔出し配信して』『二人きりで写真撮影させて下さい』……。



(なんか、マナー悪いな……)

 ファンの『民度』が低いというのが、腹立たしい。同じGURIを愛するファンであるならば、顔出しを要求したり、二人きりで撮影……というような、馴れ馴れしい態度を取るべきではない。


 思わず腹が立って、何か書込みをしてやろうかと思ったところで、GURIが口を開いた。


『コスした所は顔出ししますけど、すっぴん配信はやらないです。それと、個別の撮影依頼は受け付けていないです。……ご理解お願いします』


 やや固い声だった。なんとなく、大雅は思った。


 もしかしたら、この間絡まれたようなことは、GURIにとっては、日常なのだろうか……?


 もし、GURIにつきまとう不埒ものが居たら、大雅が、なんとかしてやりたいが、常日頃からGURIのそばに居るわけでもないのに、出来るはずもなかった。


(もし……)

 GURIが、近くに居たら―――と、大雅は、万が一にもあり得ないことを考えて、頭を横に振った。


 近くに、いるわけがない。この間は、偶然だった。


 大雅は、腕っぷしだけは自信がある。なので、もし、周りに、誰かつきまとうようなヤツが居れば、有無を言わせず殴り倒すのに……と思ったが、それこそ、GURIは望まないだろうと思うと、ため息が出た。



 コメント欄が荒れ始めた頃、GURIは『それじゃ、今日はこのくらいで。また、音声配信やると思うのでその時は聞きに来て下さい。じゃあ、おやすみ』と告げて、配信を切り上げてしまった。


 今まで繋がっていた、その繋がりコネクトが、ぷつりと切られる。

 その、瞬間、どうしようもない寂しさというか、むなしさのようなものに、飲み込まれそうになった。



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