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第15話 期待と暴走

 翌日、大雅は池袋にいた。


 アニメショップでも乙女ロードでもなく、サンシャインで開催される、コスプレイベントが目的だった。


 そもそも、大雅は、今日、コスプレイベントが開催されるというのは知らなかった。昨日の音声配信のコメント欄で初めて知ったくらいだ。


 GURIは出ていないということだったが、なんとなく、気になったのと―――もしかしたら、気が変わって参加しているかもしれない、と思ったから、来てみたのだった。


(まあ、アニメショップには行きたかったし、丁度ついでみたいなもんだし……)

 言い訳をしながら会場へ向かう。


 池袋の駅からしばらく歩いて行くと、首都高速の高架下を渡っていく。割と距離はあるし、九月の末とは雖も日差しは強く気温も高いので、汗ばんできて、ハンカチで汗を拭いながら行く必要があった。


 そうしてたどり着くのが、サンシャインだった。その近辺は、女性向けの同人ショップなどが多いことから、『乙女ロード』と呼ばれて久しい。


 サンシャインには、水族館や博物館、ショッピングが出来る所があるので、カップルや家族連れの姿が目立つ――つまり、大雅は、そこに居るだけで、異様な悪目立ちをしているというところだった。


 つい先ほどなど、ペンギンのぬいぐるみ型リュックサックを背負った子供が可愛くて、思わずじっと見ていたら、目が合って大泣きに泣かれて、「うちの子に何するんですかっ!」と母親に怒鳴られたところだった。


(まあ、見てくれが悪いよな……)

 オールバック、黒一色。高身長。


 今、手持ちのトートバッグに『天雨』の缶バッチを一つ付けているのだが、これがなかったら、通報されるのではないかという、痛々しい視線に晒されている。


(まったく……厳しいことこの上ないぜ……)

 しかし、今更イメージを変えると言っても、家に戻った瞬間に、今の姿に戻るだろう。


(家を出るとか……)

 しかし、進学先が遠く離れた地方の大学ならば、家を出る言い訳も立っただろうが、うっかり、都内の大学に進学してしまったから、その機会も失われた。次の機会は、就職だが……。


(俺って就職できんのかな……)

 とは大雅自身も思っている。


 それはさておき、コスプレイベントはすでに開始しているらしく、外の階段の所では、何人ものコスプレイヤーが出てポーズを取っていたりするのが見えた。


 大雅が知っている作品のコスプレもあったし、知らない作品も多かったが、予想して居たより人が多くて大雅は驚く。


(夏の同人誌即売会くらい居る気がする……)

 GURIもやっていたという『SPLASH!!』のコスプレの人とすれ違った時は、一瞬、GURIではないかと、思って、勝手にドキッとしてしまった。


(GURIは出ねぇって言ってたのに……)

 それでも、なんとなく、こういう所で再会できるのを、期待しているのだ。


 女々しいことこの上ない―――とは思うが、(もしかしたら、客で来てるかも知れないし)と、会場内を歩いて回る。


 そういえば、大雅の中で、GURIは、サティシャのイメージだった。だから、探し回ろうにも、素顔を知らないから、解りようもない。すれ違っていたとしても、解らないのだ。


 沢山のコスプレイヤーの姿を見て、やっと、そんなことに気が付いた大雅は、幾らか恥ずかしくなった。


 行けば会えるかも知れない、と勝手に期待して暴走して、素顔も知らなかったと勝手に落ち込むのだから……。


(こんなん、桐月とうげつさんあたりに知られたら『坊ちゃん、バカでしょあんた』と言われるのがオチだろうな……)


 桐月は、組の『若頭カシラ』という立場の人だ。なので、『組長の坊ちゃん』である大雅には、敬語だが、それが必ずしも敬っているという意味にはならないという程度に、見下されている。


 顔が良くて、三十代前半という、年若い若頭カシラなので、人目を引くのだが……大雅としては『あまり近付きたくない』類いの男でもあった。そして、綺麗な印象の外見とは裏腹に、何かを知られたら、翌日には組全体に知れ渡っているというほど、あちこちに言いふらしていくので、人呼んで『広告塔』。


 GURIを追っていることは、絶対に知られてはならない。大雅は、そう固く誓う。

 もし、コスプレイヤーを追いかけ回していると知られたら、何が起こるか解らなくて、恐怖しかしない。


 父親に知られたら、正座させられて説教を食らいそうだし……。

 最悪事態を想像すると、胃が痛くなってくる。


(一回、ヤニ吸ってくるか……)




 そしてサンシャインに数カ所だけ設置されている喫煙所を探し回り、数十分、人でごった返すサンシャインを彷徨うことになったのだった。



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