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第26話 新歓って、飲み会か!?


 気まずすぎるランチを終え、それぞれの授業へ向かった、大雅は心底ホッとした。


(GURIに、あんまり良く思われていないのは、ちょっと、悲しいけどさ……)


 それも、まあ仕方がないし『いつものこと』ではある。

 好き好んで、大雅と関わろうという人は今まで居なかった。広瀬も、そうなのだろう。ただ、『卑屈』と言われたのだけは、図星過ぎて反論も出来なかった。


 四時限目の講義は、後期から始まった『比較文学概論』で、ぼんやり聞いていたら、教授に見つかって、睨まれてしまった。睨まれたついでに、この授業はレポートもテストも出席も重視するから、低い点数が付くのが嫌な学生は、履修を辞めるようにと言われたので、びっくりしてしまった。


 しかし、周りの学生の話を聞いていると、GPAが下がるのがイヤだから、それなら、この授業は履修キャンセルするかということを呟いて居て、なんとも言えない気持ちになった。


 GPAは、最近、就職する時にも、見られることがあるらしい。

 そもそも、成績をポイント化して、その平均を取るモノがGPAだが、その高い低いだけで、一律にふるいを掛けて就職志望者をふるいに掛けるような一部の企業というのは、重視しているだろうが、本当に、そんなものが社会的に重視されているか、なんとなく、疑問になってしまう。大体、Fラン大学のGPAと東大のGPAを同じ数字で比較することが本当に可能なのだろうか?


 しかし、隣のいかにも『普通そうな』学生は、就活コンサルの言うことは、しっかりと真に受けて居るのだろうから、指示されたことは全てやるのだろう。


(俺の場合、家がああだからなあ……)


 実家がヤクザと知って、採用してくれる心の広い会社を探すところからのスタートだ。名だたる大企業などは、多分無理だろうとは踏んでいるし、そう言う企業でまっとうに『お勤め』が出来るとは、大雅自身も思っていない。


 ともかく、厳しめの講義にわくわくしつつ、履修に必要なテキスト類を揃えるのに、新宿の書店へ行こうと思いたつ。


 渋谷にも、最近大きな書店が出来たのだが、そこよりも、新宿の書店の方が単純に好きだった。


 一つだけ問題があるとすると、歌舞伎町の近くなので、なんとなく、似た感じの人が多いと言うことくらいだ。仲間と思われるならともかく、敵と思われると、非常に面倒なのだ。うっかり、父親と敵対する勢力と戦ってしまったら、それこそ、大抗争の嚆矢にもなりかねない。大いに気を付ける必要があった。


 学校を出ようとしたところで、「あれ、大雅。今日はもう、授業終わり?」と、御園生が声を掛けてきた。御園生は、周りに女子たちを侍らせていて、その中心にいる。女子学生は、七人くらい居そうだ。


「御園生先輩……なんか、すごいっスね……」

「あ? 女の子達? ……まあ、広瀬には負けるけどね。あ、今から、俺ら、カラオケ行くけど、大雅も行く?」


 女の子たちが、つま先から頭の天辺まで、じっと大雅を走査スキャンして、値踏みしている。やがて、査定が終わったのか「フッ」と女の子が鼻で笑う。あからさまに『価値なし』とでも言いたげな、嘲笑だった。なんとも、悲しい気持ちになる。


「この子、どうしたの? 麻耶くん」

「ゼミの後輩だよ」

「えー……そうなんだー」

 くすくす、と女の子たちは笑う。


「あ、自分、今から、本屋に行くんで……」

「あっ、そうなんだ。残念。今度一緒に行こうね! あとさ、今度、ゼミの新歓、飲み会やろうと思うんだけど、大雅って、バイトとかしてたりする?」

「まあそれなりに」


「じゃ、あとでメッセージ送るから、都合が良いタイミングを連絡してね」

「あっ、はい、わかりました」

「うん、じゃあね~」


 御園生は、手をひらひらと振りながら、町の方へ向かって坂を下りていく。確かに、渋谷なので、あちこちにカラオケもあった。


(カラオケと言えば、アニメコラボとかも、結構カラオケでやってるんだよな……)


 センター街のカラオケ屋などは、去年の冬に『天雨』のコラボルームがあって、本当に行きたかったのに、全く予約を取ることが出来なかった。それに、レコード店のコラボカフェ。これも抽選に漏れた。


(今年は、なんか行けると良いんだけどなあ……)

 などと、オタ活に思いを馳せて現実逃避をしていたが、急に(いやいやいやいやちょっと待て!)と現実が戻ってきた。


「今……御園生先輩アイツ……なんて言ったんだ……? 新歓っ!? 新歓って、飲み会か!?」

 今の、女の子達に囲まれて、カラオケ屋に行くと言って去って行った、陽キャ代表の御園生が、新歓の『仕切り』ということなのだろうか……? だとしたら、どんなところで新歓をやられるか、気が気ではない。


 今まで、実は、大雅は飲み会に参加したことはなかった。


(ヤベ……俺、もしかして、初飲み会かもしれねぇ……)

 同席に、広瀬=GURIが居るということは、少々、気が重かったが、それでも、少し思い直す。


(もしかしたら……、少しくらいは、広瀬も打ち解けてくれるかも知れねぇし……いや、まあ、最低限、話しかけてくれたりしたら、嬉しいけど……)

 などと、と思いつつ、大雅はスマートフォンを握りしめ、御園生からの連絡を待った。




 そして新歓案内が届いたのは、それから五時間後だった。



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