ある日の休み時間。
次の授業の準備をしていた
(先輩かな?)
学校では
『クッキーを作ったわ』
登校時に涼香から、今日は調理実習でクッキーを作ると聞いていた。その時に完成したらあげると言われていたのだ。
『教室で待っているわね』
それに喜びのスタンプを送った後、手早く準備を終わらした涼音は早足で涼香のいるクラスへ向かうのだった。
教室へ辿り着いた涼音は、空いているドアから中へ入る。
涼香のクラスメイトに挨拶を返しながら、涼香の席へと向かう。
「いらっしゃい、涼音」
そう言うと涼香は袋に入ったクッキーを涼音に手渡す。ラッピングはされていないが、授業で作ったのだから仕方がない、涼音もそこは全然気にしていない。
「わあ、ありがとうございます!」
クッキーをもらって顔をほころばす涼音を穏やかな表情で見守る涼香。
すると横からシャッター音が響き、驚いた涼音が音のした方に顔を向ける。
スマホを構えたここねが申し訳なさそうに微笑む。
「ごめんね、涼音ちゃん」
よく見るとここねが構えているのは自分のスマホではなく涼香のスマホだった。涼香がここねに頼んだのだろう、それならば写真を撮られても仕方がない。仕方ないが。
「いえ……、大丈夫です……けど」
恥ずかしかった。サッとその場で身をかがめてカメラから逃れようとする。
涼香はそんなことなど気した様子はなく受け取ったスマホを見て「よく撮れているわね」などと呑気なことを言っていた。
「涼音ちゃん、大丈夫だよ。みんな知ってるから」
ここねが羞恥に悶える涼音のフォローをする。クラスメイト達の涼音に向けられる視線は微笑ましい光景を観るものなのだから大丈夫だと。
「それはそれでアレなんですけど……」
立ち上がった涼音はもらったクッキーの入った袋に目を向ける。調理実習だから塩と砂糖は間違えてないだろうし安全なクッキーだと思う。
「食べてみて」
休み時間だから悠長にしている時間は無い。涼香に急かされて、クッキーを一つ食べる。
「あ、美味しい」
「そうでしょう」
涼香は誇らしげに胸を張る、渡すまで少し不安だったが、美味しい美味しいと何枚もクッキーを食べている姿を見て不安が一気に解消された、喜んでくれてなにより。
いつもケーキを作ってくれる涼音に、少しでも恩返しになればいいけれど。不安が解消されたそばから新しい不安が生まれる涼香。まあそんな不安もすぐに解消されるのだが、それはまた別の話。