ある日の昼休みの図書室。長年置かれた本特有の香りと、バーコードを読み取る電子音が混じり合う落ち着いた空間にコツコツと小さな足音が響く。
本を数冊抱えてあっちへ行ったりこっちへ来たり、図書委員の
そんな図書委員の仕事中、涼音が一冊の本を書架に戻そうとした時。
「励んでいるわね」
「今日は先輩の日じゃないですよね?」
涼音が本を戻しながら言う。
戻したらまた別の書架に移動、少し大きな音が立った後、涼香もついてくる。
「委員の仕事がなくてもたまに利用するわよ」
「そうなんですねー」
「なんだか素っ気ないわね」
「図書室では静かにしないといけませんから……」
二人が今いるのは、図書室に並ぶテーブル近くの書架、人の目に触れやすい場所だ。当然利用者の目は涼香に向く。
「優秀な後輩が育って、先輩は嬉しいわ……」
涙を拭う仕草をする涼香を一瞥してその場から足早に離れる。
涼音を追って奥に向かうと、あまり貸し出しされない、余裕で人を撲殺できる程の本が並ぶゾーンだ。
「どうしたんですか?」
辺りに人の気配が無いのを確認すると、声を潜めた涼音が聞く。
「丁度家から持って来た本を読み終えてしまったのよ、それで代わりの本を探そうかしらと思って」
涼香は分厚い背表紙を撫でていく。
「なーんだ、そういうことだったんですね」
口を尖らせた涼音が涼香の横に並んで本を眺める。
その様子を見ていた涼香は頬を緩めるとそっと囁く。
「本当は涼音に会いに来たのよ」
「……それなら連絡してくださいよ」
そう言うと涼音は図書委員の仕事に戻っていくのだった。