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夢の中にて 2

 ある日の夢の中。


涼音すずね、こっちに来て」


 涼香りょうかは座る自身の隣を手でぽんぽんと叩く。


 呼ばれた涼音は涼香の隣に座らず、涼香の膝の上に腰を下ろす。


「えへへ」


 涼香の手を自分に回し身体を預ける。


「やっぱり夢の中では素直なのね」


 昔の涼音ならまだしも、今の涼音はこういうことをあまりしてくれない。年頃だし仕方ないかと納得しているが少し寂しい。


「あたし涼香ちゃんとずっと一緒にいたい」


 無邪気に笑う涼音に涼香は、幼い娘が「将来はパパと結婚する!」と言われた時に抱くであろう感情を抱く。


 夢の中の涼音は下の名前で呼んでくれるのだ。これは涼香自身が心のどこかで、涼音に下の名前で呼んでほしいと思っているからなのか、はたまた違う理由なのか。


「私もそう思っているわよ」


 涼香自身は、夢と現実で呼び方が違うなんてお得だわ、としか思っていないのだが。


「涼香ちゃんあったかい」

「涼音も温かいわよ。……さすが夢ね」


 涼音は変わらず笑顔で甘えてくるがやはり夢。


「どうして燃えているのかしら」


 辺り一面火の海だった。


(場所、変わらないかしら)


 とりあえず立ち上がろうとすると。


「離れちゃやだあ」


 涼音が体重をかけて涼香を立ち上がろうとするのを阻止してくる。


「離れるつもりはないけど、このままでは丸焼きになるわよ」


 涼音を軽々と持ち上げた涼香はそのまま飛び上がる。湯船から顔を出した涼香は大きく息を吸い込む、連れて来た涼音はいなくなっていた。


 どこに行ったのかしら? そう首を捻ると漂う湯気が人の形を作っていき、それがやがて涼音の姿になった。


「涼香ちゃん、プールの授業終わったよ」

「あら、本当ね」


 涼香は今、純白に真っ赤なスカーフが映えるセーラー服を着たままプールの中にいた。


 火の次は水だ、そして今はプールの授業が終わった後ということらしい。


 水に濡れて重たいセーラー服を纏って、プールから出ようと、涼香はプールサイドに手をかけて身体を持ち上げる。


「うぎゃっ――」


 そして見事に足をつってプールへと沈んでいく。


(とりあえず起きたほうがいいわね)




 目を覚ました涼香はふくらはぎを揉みながら身体を起こす。


 幸いにも現実ではあしをつっていなかったようだ、額に浮いた汗を拭いながら涼香はスマホを手に取る。


 時刻は五時五十六分、忌まわしきアラームが鳴る四分前だ。


「今日は私の勝ちね」


 五分ごとに設定されているアラームを次々と切りながら涼香は勝ち誇る。


 今日は時間があることだし朝食は少し豪華にしましょう、そう思いながら部屋を出ていくのだった。

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