ある日の夢の中。
「
呼ばれた涼音は涼香の隣に座らず、涼香の膝の上に腰を下ろす。
「えへへ」
涼香の手を自分に回し身体を預ける。
「やっぱり夢の中では素直なのね」
昔の涼音ならまだしも、今の涼音はこういうことをあまりしてくれない。年頃だし仕方ないかと納得しているが少し寂しい。
「あたし涼香ちゃんとずっと一緒にいたい」
無邪気に笑う涼音に涼香は、幼い娘が「将来はパパと結婚する!」と言われた時に抱くであろう感情を抱く。
夢の中の涼音は下の名前で呼んでくれるのだ。これは涼香自身が心のどこかで、涼音に下の名前で呼んでほしいと思っているからなのか、はたまた違う理由なのか。
「私もそう思っているわよ」
涼香自身は、夢と現実で呼び方が違うなんてお得だわ、としか思っていないのだが。
「涼香ちゃんあったかい」
「涼音も温かいわよ。……さすが夢ね」
涼音は変わらず笑顔で甘えてくるがやはり夢。
「どうして燃えているのかしら」
辺り一面火の海だった。
(場所、変わらないかしら)
とりあえず立ち上がろうとすると。
「離れちゃやだあ」
涼音が体重をかけて涼香を立ち上がろうとするのを阻止してくる。
「離れるつもりはないけど、このままでは丸焼きになるわよ」
涼音を軽々と持ち上げた涼香はそのまま飛び上がる。湯船から顔を出した涼香は大きく息を吸い込む、連れて来た涼音はいなくなっていた。
どこに行ったのかしら? そう首を捻ると漂う湯気が人の形を作っていき、それがやがて涼音の姿になった。
「涼香ちゃん、プールの授業終わったよ」
「あら、本当ね」
涼香は今、純白に真っ赤なスカーフが映えるセーラー服を着たままプールの中にいた。
火の次は水だ、そして今はプールの授業が終わった後ということらしい。
水に濡れて重たいセーラー服を纏って、プールから出ようと、涼香はプールサイドに手をかけて身体を持ち上げる。
「うぎゃっ――」
そして見事に足をつってプールへと沈んでいく。
(とりあえず起きたほうがいいわね)
目を覚ました涼香はふくらはぎを揉みながら身体を起こす。
幸いにも現実ではあしをつっていなかったようだ、額に浮いた汗を拭いながら涼香はスマホを手に取る。
時刻は五時五十六分、忌まわしきアラームが鳴る四分前だ。
「今日は私の勝ちね」
五分ごとに設定されているアラームを次々と切りながら涼香は勝ち誇る。
今日は時間があることだし朝食は少し豪華にしましょう、そう思いながら部屋を出ていくのだった。