中間テストの初日が終わった。初日は全学年三時間まで、一日目を乗り切った達成感と共に、自制心の鎖が一つ解き放たれる。
そして学校に残って勉強する生徒や、家で勉強する生徒、ショッピングモールのフードコートで友達と勉強する生徒と、概ね三種類の生徒がいる。
そんな中、
「先輩テストどうでした?」
「ええそれはもうバッチリよ」
涼音は三年生の教室の、涼香の前の席に座っていた。
「……本当は?」
「いつも通りね」
「卒業できるんですか?」
「それは心配ないと思うわよ」
「だといいんですけど……」
他の生徒に紛れて帰るとなると、なかなか前へ進めずちょっとした騒ぎになるため、こうして帰る時間を遅らせているのだ。
受験生だからか、三年生の教室は二年生の、涼音のクラスで残っている生徒よりも多かった。涼音は勉強の邪魔にならないように、明日のテスト科目のノートを広げて読みながら頭の中で整理していく。
大体三十分以上時間を潰せば他の生徒と被らずに帰ることができる。
「ねーえ、すーずねー」
「なんですか。ちょっと手が邪魔です」
ノートの上で指を芋虫のように動かして邪魔をしてくる涼香の手を涼音は鬱陶しそうに払う。
「邪険にするのなら前を向けばいいではないの」
「いや先輩が勉強しているのかの監視ですよ」
「涼音が私の机を使っているせいで勉強できないのよ」
「……」
スッと前を向いた涼音の背中が少し小さく見えた。
「あーあ。涼音ちゃん泣かしたー」「涼香さあ、それはないんじゃないの」「よしよし、酷い先輩だねえ」
残っていたクラスメイト達が一斉に涼香を責めたて涼音を慰める。
「ちょっと待ちなさい。どうして私が悪いみたいになっているのよ」
「うえーん、先輩が酷いよお……。どうせ勉強しないのに」
前半棒読みで後半は感情がこもっていた。
涼香は立ち上がると涼音を慰めているクラスメイト達をしっしと追い払う。そして涼音を守るように抱きしめると周りに細めた目を向ける。
「まったく……、悪い先輩達ね」
クラスメイト達は肩をすくめると各々勉強へ戻る。
涼音は涼香の腕をぺちぺちと叩く。
「先輩、暑いです、離れてください」
「あら、ごめんなさい」
解放された涼音は赤くなった頬を手で扇ぎながら時計へと目を向ける。そろそろ他の学年の生徒達も帰った頃だろう。
「すみません、お騒がせしました」
「大丈夫だよー」「またね、涼音ちゃん」「
ぺこりと頭を下げた涼音は足早に三年生の教室を後にする。
「ちょっと置いてかないでよ」
涼音の後を慌てて追いかける涼香だった。