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休み時間にて 4

 ある日の休み時間、涼香りょうかは一人読書をしていた。学校ではできるだけ涼音すずねに会いに行かないようにしている涼香にとって、読書は暇な休み時間の潰し方の一つだった。


「今日の涼香は静かね」


 涼香のクラスにやってきた菜々美ななみが、涼香の隣の席のここねの頭を撫でながら囁く。囁いてから、菜々美は己の犯してしまった罪を自覚する。


 涼香はチラリと横目で菜々美を確認した後、本に目を戻したかと思うとゆっくりと本を閉じる。


「あ、これ独り言だから反応しないで、喋らないで」

「この前の涼音すずねが可愛かったのよ。涼音はいつも可愛いけど」


 菜々美の声は届かなかったらしく、涼香はいつも通り喋り始める。休み時間の涼香は読書をしているか涼音のことを話すかのどちらかだ。ちなみに読書をしている割合はかなり低い。


「そうね、涼音ちゃんは可愛いわね。それは本気でそう思う」

「でしょう? ほら見なさいこの涼音の写真を」


 涼香のスマホには、口の端に着いた生クリームなんて気にせず、笑顔でクレープにかぶりつく涼音の写真があった。


「可愛いけど……勝手に見せたら怒られるわよ」


 涼香のスマホに手を伸ばした菜々美は、スマホのサイドボタンを押す。


「涼音が可愛すぎるのがいけないのよ」


 暗転したスマホをポケットにしまった涼香はどこか儚げで、誇らしげに語る。


「いや、涼音ちゃんのせいにしないであげて」


 生暖かい空気が教室を満たすのだった。

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