ある休日。
「見て涼音。あの雲、クジラみたいよ」
「ほんとですねー」
時刻は昼前。太陽は昇りきっておらず、辺りには家族連れの姿がちらほら。風に吹かれた草が擦れる音が聞こえ、子供のはしゃぎ声が頭上を飛び交う。そんなのんびりとした時間が流れる。
「あ。あの雲は鳥みたいですね」
「ええ。鳳凰ね」
「……三羽います」
「フェニックスと朱雀ね」
「……」
「どうしたの?」
涼音が黙りこくると、涼香が身体を起こして涼音の顔を覗き見る。
その目はいったいなにを見ているのだろうか。
「涼音?」
目の前で手を振ったり顔を近づけたり。最後は髪の毛で涼音の鼻をくすぐってみたりする。しかしそれでも涼音の反応は無かった。
涼香は悲しくなってきた。せっかくの天気のいい休日。頑張って朝に起きて涼音とピクニックに来たのに、涼音は反応を返してくれない。
のんびりと流れる時間。のんびり流れすぎて、時間が止まってしまったのではないかと錯覚してしまう。
諦めた涼香は再び寝転ぶ。
その目はいったいなにを見ているのだろうか。
涼香がそっと涼音の手を握ってみると軽く握り返してくれた。日向の温かさとはまた違う温かさが手から伝わってくる。悲しい気持ちはもう無い。
二人は太陽が昇りきるまで、のんびりとした時間に揺られていた。