ただいま梅雨の季節真っ只中。雨で足は濡れるし、じめっとブラウスが張り付いたりでなかなか不快だ。
そんな梅雨の教室で、
「じめー……、じめー……」
「つんつんつんつんつんつんつんつんつん」
波やオチなど無い、ただ緩い日常を過ごす二人が共にいるのは、緩慢な時間が流れる放課後の教室。
「じめじめじめじめじめじめじめじめじめー」
「気でも狂ったのかしら」
「えぇ……」
顔を上げて涼香を見ると、下敷きで風を送ってくれた。
「あー涼しいですー」
「これからもっと暑くなるわよ」
「生きていける気しないですねー」
涼音がこれから来る暑さを想像して顔を顰める。夏はなかなか外に出かけることができない。普段からあまり外に出かけたりはしないのだが、『出かけない』と『出かけられない』とは、窮屈度が違うのだ。
「夏なら水族館に行きたいわね」
「そう言って去年水族館に行ったら蒸し暑かったじゃないですか」
「そうだったかしら?」
「それに、人が多いんで嫌です」
身体を起こした涼音が、固まった身体を伸ばして立ち上がる。
「夏はどこも多そうね」
涼香も立ち上がり、リュックを背負う。
「熱中症が怖いんで今年も引きこもりましょう」
自分のリュックからペットボトルのお茶を取り出して飲んだ涼音は、残り少ない中身を蛍光灯にかざしながらしみじみと呟く。
「重くなるの嫌だなぁ……」
無くなれば食堂の自販機で買ったり、冷水機で水を汲めばいいのだが、気持ち的に面倒だった。すると、涼香が涼音のペットボトルを横から取り上げる。
「ちょっと先輩」
「……私が軽くしてあげたわよ」
綺麗なウインクをした涼香が、空になったペットボトルを軽く振る。
「そういうことじゃないんですけどね……」
「足りないわね、冷水機に行きましょう」
「残りちょっとでしたもんね」
涼音は微苦笑しながら、受け取ったペットボトルをリュックに入れる。
そしてリュックを背負うと、涼香と共に教室を後にするのだった。