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5月

授業中にて 3

 ある日の授業中のこと。


「体育祭に出場する競技を決めたと思いまーす」


 そんな声で始まった時間。涼音すずねは頬杖をつきながら黙って話を聞いていた。


 体育祭は学年対抗、三学年クラス対抗の二種類の点数があり、それぞれで優勝を争うというのがこの高校の体育祭らしい。


 黒板には、二人三脚や借り物競争、宝探しなど、十種類以上の競技が書かれていた。


 出場は一人最低一競技で、生徒が一同に集まる体育祭などが苦手な涼音は、適当な一競技を選ぶために頭を働かせていた。


(体育祭みたいなイベントは先輩の周りに人だかりができるはず……でもそれは三年生達がなんとかしてくれるだろうし、あたしがするのは先輩がドジってもフォローできるようにすることだけ。でも、学年が違うしクラスも違うしどうしよう……競技中のフォローも三年生達に任せるしかできないし、あたしにできること……ある?)


 そんなこんなで顰めっ面になっている涼音は、一つ上の階で授業を受けている涼香りょうかの姿を思い浮かべる。


 全学年全クラス同じタイミングでこの体育祭の出場競技を決めているため、涼香がどの競技に出ているのか知る頃には、涼音も出場競技を決めている。


 そして涼音は黒板に書かれているある一競技に目を止める。


『借り物競争』


(借り物競争ってなにを借りるの? 考えろ、高校生の借り物競争なんて絶対ふざけたものが入ってる。好きな人とか、可愛い子とか――はっ、これは先輩が引っ張りだこになる競技⁉)


 少々の飛躍があった気がするが、涼音の考えていることは概ね合っていた。というか去年がそうだった。そうと決まれば出場する競技は一つ。


 ――ここまでの経過時間は十四秒


「まずは、みんな出たいと思う借り物競争から」

(え?)


 体育祭委員の声が聞こえるや否や涼音を含む全員が手を挙げる。


(えぇ……⁉)


 涼音が戸惑っているとちらほらと声が聞こえる。


「今年は水原先輩とゴールインするんだ」


 誰もが大体このようなことを言っていた。


 クラスは四十人弱、そして借り物競争に出場できる生徒は一クラス五人。


「じゃあ、ジャンケンね」


 絶対に負けられない戦いが今、始まる!

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