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借り物競争にて

 一年生の借り物競争が終り、次は涼音すずね達二年生の番だ。


 ちなみに一年生達の借り物競争では、全ての競争に涼香りょうかが借りていかれ、涼音も二回借りられた。


 二年生がトラック内に入ったのを確認すると、続いては二年生です、というアナウンスが入り、いよいよ借り物競争二年生の部が始まる。


 涼音の番は五組目、一番最後だ。


 他の生徒達が順番にスタートしていく。当然全ての競争で涼香は借りられていく。その様子を見て、涼香を借りられなかったらどうしよう、と不安な気持ちになっていると――。


檜山ひやまさん、私と来てください!」

「え⁉ はい⁉」


 他のクラスの生徒に声をかけられて思わず反射的に答えてしまう。


 次が自分の番で、ここで疲れてしまうとかなり不利になるのだが、手を引かれた涼音はゴールまで走ってしまう。


 ゴール地点では、係の三年生が借り物を書かれている紙の内容を確認し、ゴールできるのかできないかを確認する。


 確認を終え、無事ゴールした他クラスの生徒は涼音に握手を求めた後、礼を言って涼音と別れる。


 そして急いでスタート地点に戻った涼音は深呼吸をして息を整える。


 間もなく涼音の番だ、並び順を決めるくじ引きを引き、どこから走るのかを確認する。


 涼香のいる入場門に一番近いのが一番、一番遠いのが七番だ。涼音の引いた番号は二番、二番目に入場門から近い場所だ。


 位置に着いた涼音は集中する。


(スタート位置はかなり有利、あとは出遅れずに、頑張る!)


 号砲が鳴った瞬間、一斉に走者はスタートダッシュを決める。


 紙までは直線、ここではほとんど差がつかない。紙を取った涼音は中を確認せずに涼香の下へ駆け出す。


 その涼音の様子を見て、他の走者も涼香へ向かう。しかし場所の有利が働き、一番の生徒以外は、相当の走力を持っていない限り涼音を追い越すことができない。つまり涼音と一番の生徒との一騎打ちになる。


 入場門の下で立っている涼香目指して全力疾走。先ほどの疲れが僅かに残っているが、ここで負けるわけにはいかない。他の生徒など視界にも思考に入れず、ただ必死に足を動かす。


 そしてもう一歩で涼香に辿り着く――その時。


「あ――っ」


 足がもつれてしまった涼音が体勢を崩す。


 全力疾走の勢いのまま、地面に激突しそうになる涼音を。


「涼音!」


 一歩踏み出した涼香が涼音を受け止める。


 その瞬間湧き上がる歓声。万雷の拍手。


「頑張ったわね」

「よかっ……た……はあ、はあ……」


 息を切らした涼音が涼香の身体をしっかりと掴む。


「ごめんなさい、涼音に借りられてしまったわ」


 ほぼ同時にやって来た一番の生徒に涼香が申し訳なさそう言うが、一番の生徒は涼香に声をかけてもらったのが嬉しかったのだろう、元気に返事をして、すさまじい速度で借り物を探しに行く。


「疲れたでしょう、ゆっくり行きましょうか」


 涼音の身体を支えながら、ゆっくりとゴールまで向かうのだった。

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