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借り物競争にて 2

 次は借り物競争三年生の部――涼香りょうかの番だ。


 ちなみに涼香の出走は一番初め、これまで十回連続でスタートからゴールまでを往復している。そのため脚が痛い、シンプルに疲れていた。


 しかし涼香は適当に終わらせることができなかった、それはもちろん涼音すずねを借りるためだ。


 涼音の可愛さは全人類が知るべきだと思っている涼香だが、だからといって涼音を誰かに渡すつもりは無い。


 涼香は三年生の席がある場所にいる涼音を見つける。探す手間が省けた、もしいなくても大声で叫ぶ予定だったが。


「涼音は誰にも渡さないわよ!」


 周りを威嚇しながら、出走場所を決めるくじを引く。


 引いた番号は五番、しかしスタート位置などどうでもいい。


 位置に着く。号砲が響き、借り物競争三年生の部が始まる。


 三年生は涼香争奪戦にはならないため、比較的落ち着いた雰囲気で進む。実に平和である――が、涼香が出走するため、まだ騒がしい。


「さて、なにが出るのかしら」


 涼音を借りられるもの、涼音を借りられるもの。とドキドキしながら紙を拾い上げる。


 書かれているものを確認した涼香は確信した、これなら涼音を借りることができる。不正などする必要は無い。


「よしっ、行ってこい」


 なぜが涼香以外の出走者が涼香の周りにいた。


「それにしても、どうしてさっきから私の周りにいるのよ」

「涼音ちゃんのため?」


 これは予め三年生で決めていたことと、涼音にお願いされていたことだ。


 ――涼香のドジのフォロー。


 放っておくと、なにをしでかすか分からない涼香の安全と、体育祭の安全のために決めたこと。


「そう。それなら仕方ないわね」


 なにも知らない涼香は、涼音の下へ向かうのであった。



「涼音、行きましょう」

「えぇ……」


 涼香に呼ばれた涼音は僅かに顔をしかめる。


 呼んだ拍子に腕を掴まれたせいでものすごく目立ってしまう。そのため、嫌な顔をしながらも涼音の動きは早く、涼香を引っ張る勢いでゴールへと向かう。


 周りからの嫉妬が無いのが救いだったが――。


「ちょと、もう少しゆっくり行きましょう」

「早い方がいっぱい休めますよ」


 それでも涼音の居心地の悪さは変わらない。適当に理由をつけて、早くこの衆人環境下から逃げだしたくて仕方なかった。



「はい、紙見せて」


 ゴールに辿り着いた二人。涼音が涼香から紙をひったくって渡そうとした時、少し中が見えてしまった。


「――⁉」

「おー、涼香のくせにちゃんとしたやつだ。これなら屁理屈こねる必要ないね」

「当然よ」


 固まる涼音をよそに、涼香達が話している。


「ゴールね、涼音ちゃんもお疲れ様」

「え⁉ あ、はい」

「大丈夫? 顔が赤いわよ」

「だ、大丈夫です。先輩の方が疲れてますよね? 早く休んだ方がいいですよ」

「ええ、休ませてもらうけど……、熱中症になるといけないわ、水分を取って涼しい場所で休まないと」

「はい、すぐ休むので。それでは」


 涼音はそそくさとその場を去る。


 それを見届けた涼香は、後で飲み物を持って涼音を探しに行こうと決めるのだった。

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