次は借り物競争三年生の部――
ちなみに涼香の出走は一番初め、これまで十回連続でスタートからゴールまでを往復している。そのため脚が痛い、シンプルに疲れていた。
しかし涼香は適当に終わらせることができなかった、それはもちろん
涼音の可愛さは全人類が知るべきだと思っている涼香だが、だからといって涼音を誰かに渡すつもりは無い。
涼香は三年生の席がある場所にいる涼音を見つける。探す手間が省けた、もしいなくても大声で叫ぶ予定だったが。
「涼音は誰にも渡さないわよ!」
周りを威嚇しながら、出走場所を決めるくじを引く。
引いた番号は五番、しかしスタート位置などどうでもいい。
位置に着く。号砲が響き、借り物競争三年生の部が始まる。
三年生は涼香争奪戦にはならないため、比較的落ち着いた雰囲気で進む。実に平和である――が、涼香が出走するため、まだ騒がしい。
「さて、なにが出るのかしら」
涼音を借りられるもの、涼音を借りられるもの。とドキドキしながら紙を拾い上げる。
書かれているものを確認した涼香は確信した、これなら涼音を借りることができる。不正などする必要は無い。
「よしっ、行ってこい」
なぜが涼香以外の出走者が涼香の周りにいた。
「それにしても、どうしてさっきから私の周りにいるのよ」
「涼音ちゃんのため?」
これは予め三年生で決めていたことと、涼音にお願いされていたことだ。
――涼香のドジのフォロー。
放っておくと、なにをしでかすか分からない涼香の安全と、体育祭の安全のために決めたこと。
「そう。それなら仕方ないわね」
なにも知らない涼香は、涼音の下へ向かうのであった。
「涼音、行きましょう」
「えぇ……」
涼香に呼ばれた涼音は僅かに顔をしかめる。
呼んだ拍子に腕を掴まれたせいでものすごく目立ってしまう。そのため、嫌な顔をしながらも涼音の動きは早く、涼香を引っ張る勢いでゴールへと向かう。
周りからの嫉妬が無いのが救いだったが――。
「ちょと、もう少しゆっくり行きましょう」
「早い方がいっぱい休めますよ」
それでも涼音の居心地の悪さは変わらない。適当に理由をつけて、早くこの衆人環境下から逃げだしたくて仕方なかった。
「はい、紙見せて」
ゴールに辿り着いた二人。涼音が涼香から紙をひったくって渡そうとした時、少し中が見えてしまった。
「――⁉」
「おー、涼香のくせにちゃんとしたやつだ。これなら屁理屈こねる必要ないね」
「当然よ」
固まる涼音をよそに、涼香達が話している。
「ゴールね、涼音ちゃんもお疲れ様」
「え⁉ あ、はい」
「大丈夫? 顔が赤いわよ」
「だ、大丈夫です。先輩の方が疲れてますよね? 早く休んだ方がいいですよ」
「ええ、休ませてもらうけど……、熱中症になるといけないわ、水分を取って涼しい場所で休まないと」
「はい、すぐ休むので。それでは」
涼音はそそくさとその場を去る。
それを見届けた涼香は、後で飲み物を持って涼音を探しに行こうと決めるのだった。