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借り物競争の後にて

 借り物競争を終えた後、涼香りょうかはスポーツドリンクを持って、どこかで休んでるであろう涼音すずねを探すことにした。


 しかし、涼音を探そうと少し歩くと。


水原みずはら先輩! 写真撮らせてください!」


 ――Ⅴサイン。


 なかなか自由に動けなかった。


(涼音はどこにいるのかしら……?)


 下級生の対応をしながら、涼音を探すが見当たらない。もしかすると人目のつかない場所にいるのではないか、そう思ったがやはり自由に動けない。


 そんな涼香を見かねたのか。


「涼香ー、先生呼んでるよー」


 クラスメイトの一人が涼香を呼ぶ声が聞こえた。


「ごめんなさい。呼ばれたみたい」


 下級生には申し訳ないが呼び出しを無視する訳にはいかない。


 道を開けてくれる下級生の間を通って、涼香は声のした方に向かう。


 涼香がやってくるのを見たクラスメイトは、校舎を指で示す。


「涼音ちゃんあっちに行ったよ」

「やっぱり体調が悪いのかしら?」


 既に先生に呼ばれた、ということを忘れている様子。まあ先生に呼ばれた、というのは嘘なのだから忘れていても問題は無い。


「もしなにかあったら呼んで」


 クラスメイトはそう言って涼香のスマホを手渡す。


「ありがとう、行ってみるわ」



 涼音は借り物競争の後、自分の学年の席にも、三年生の席にも行かずにグラウンドから離れていた。


 グラウンドから身を隠すように、校舎の陰で腰を下ろしていた涼音はため息とともに言葉を漏らす。


「めっちゃ目立ったし……」


 さっきの借り物競争、目立つのを承知で涼香を借りに行ったが、やはり慣れないことはしたくない。


 しかも転びそうになって涼香に受け止めてもらったし、涼香に借りられたりで、なおさら目立った。もう戻るのが嫌だった。絶対に話しかけられる。


 そんなことを考えて意気消沈していると。


「こんな場所にいたのね」

「うわ、先輩だ」


 三年生のフォローで上手く抜け出してきたのだろう涼香がいた。


「来たわよ。やっぱりしんどいの?」


 涼音の隣に腰を下ろした涼香がスポーツドリンクを手渡す。


「ありがとうございます。しんどいってゆーか疲れましたね」

「私の方が疲れているわよ」


 なぜか涼香は張り合ってくる。おまけにもたれてくる。


 涼音は精神的に疲れているのだが、涼香はお構いなしだった。


「明日筋肉痛ですね」

「そこまで運動不足ではないわよ!」

「えぇ……」


 体育祭の盛り上がった空気に影響されたのか、少しテンションが高めの涼香であった。

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