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借り物競争の後にて 2

 体育祭の喧騒から切り離された人目のつかない校舎の陰で、涼香りょうか涼音すずねは休んでいた。


「先輩、そろそろ戻りませんか?」


 あまり長い時間いなくなっていると、心配した誰かが探しに来るかもしれない。


 涼音が自分にもたれかかる涼香にそう言うと、カメラのシャッター音を切る音が聞えた。


「ふふっ、この涼音はレアよ」

「もう……」

「ねえ涼音、今からでも他の競技に出るというのはどうかしら」


 撮った写真を眺めながら、涼香は名案を思いついたという空気を醸し出す。


 やむを得ない理由がある場合、例えばクラスに怪我や欠席者などがいた場合には、代理で出場することができる。


「嫌です」

「私来年はいないのよ? 一緒に体育祭の思い出を作りましょうよ」

「今現在作ってるじゃないですかー」


 もたれかかる涼香を押しのけ涼音は立ち上がり、僅かに微笑みながら見上げる涼香に手を差し伸べる。


「そう言われるとそうね」


 その姿を写真に撮り、髪を払った涼香が涼音の手を取ろうとする。


 しかし手を取る直前に涼音の手は引かれ、おまけに涼音は背を向けてグラウンドへと戻ろうとしていた。


「涼音の意地悪!」


 震える脚で立ち上がった涼香は、慌てて涼音を追いかけるのであった。

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