体育祭の喧騒から切り離された人目のつかない校舎の陰で、
「先輩、そろそろ戻りませんか?」
あまり長い時間いなくなっていると、心配した誰かが探しに来るかもしれない。
涼音が自分にもたれかかる涼香にそう言うと、カメラのシャッター音を切る音が聞えた。
「ふふっ、この涼音はレアよ」
「もう……」
「ねえ涼音、今からでも他の競技に出るというのはどうかしら」
撮った写真を眺めながら、涼香は名案を思いついたという空気を醸し出す。
やむを得ない理由がある場合、例えばクラスに怪我や欠席者などがいた場合には、代理で出場することができる。
「嫌です」
「私来年はいないのよ? 一緒に体育祭の思い出を作りましょうよ」
「今現在作ってるじゃないですかー」
もたれかかる涼香を押しのけ涼音は立ち上がり、僅かに微笑みながら見上げる涼香に手を差し伸べる。
「そう言われるとそうね」
その姿を写真に撮り、髪を払った涼香が涼音の手を取ろうとする。
しかし手を取る直前に涼音の手は引かれ、おまけに涼音は背を向けてグラウンドへと戻ろうとしていた。
「涼音の意地悪!」
震える脚で立ち上がった涼香は、慌てて涼音を追いかけるのであった。