借り物競争を終えたここねは、退場口で待機せずに
「失礼します……」
体育祭中、養護教諭はグラウンドにいるのだが、事情を話し、保健室の鍵を受け取ってやって来たのだった。
薬品などが入っている棚などには鍵がかけられており、開けることができない。
人の気配の無い校舎内の保健室の中、ここで聞こえるのは菜々美のすすり泣く声だけだった。
――菜々美は泣いていた。
「菜々美ちゃん、少し横になろっか?」
「……うん」
先程の借り物競争、菜々美は
「ごめんね、菜々美ちゃん」
「ここねは悪くないわよ、私の身長が足りなかったのが悪かったのよ」
ベッドに腰かけた菜々美は、ここねを目一杯抱きしめる。
「
菜々美の肩に顔を埋めるここねが頷く。そしてそのまま菜々美に体重をかけて横になるように促す。
「ありがとう、菜々美ちゃん。わたしも菜々美ちゃんのこと大好きだよ」
横になる菜々美の手を優しく握りながらここねは言う。
二人だけの空間を創りかけた、その時。
「なんでみんな保健室でいちゃつくんだろ……」
「あっ先生!」
「あっああああああ⁉」
保健室へやって来た養護教諭がため息をつく。
「もう慣れているから別にいいんだけど、元気なら保健室開けないわよ。外で怪我人が出た時に対応しないといけないから」
「菜々美ちゃんが意識失ってしまいました」
「……なんかごめんね?」
恥ずかしさのあまり意識を失ってしまった菜々美に布団を掛けたここねは、菜々美の頭を撫でるとその場を離れる。
それと入れ替わって養護教諭が菜々美の顔を覗き見る。
「しばらく安静にさせないといけないわね。先生見ているから、
「わかりました。それでは、菜々美ちゃんのことよろしくお願いします!」
ずっと菜々美に付き添っていたいのだが、今は体育祭真っ最中だ。戻らないわけにはいかない。
ここねは名残惜しい気持ちで保健室を後にするのだった。