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二人三脚にて

 次の競技は二人三脚リレーだ。


 涼音すずねと別れた涼香りょうかは、クラスメイトの若菜わかなと共に入場門で並んでいた。


「涼香は好きに走って、私が合わせるから」

「言い心掛けね、足手まといにならないよう精々頑張りなさい」


 髪を後ろでまとめながら涼香が言う。


「なんで偉そうなの?」

「私たちの仲ではないの」

「親しき中にも礼儀ありって言葉知ってる?」

「さあ行くわよ!」

「うわ誤魔化した」


 誤魔化されてもまあいいやと、我ながら涼香に甘すぎるなと思いつつも出走位置に立ち、互いの足を紐で結ぶ。


 二人三脚リレーは、各クラス六組がトラックを半周走る。


 涼香と若菜は第二走者。涼香はアンカーになりたがっていたが、じゃんけんで負けてこうなった。


「私たちで圧倒的な差をつけるわよ」

「はいはい」


 アンカーになれなかったことでいじけているかと思ったが、やる気があるようで良かった。


 そんなこんなで二人三脚リレーがスタートした。



 さすが三年生というべきか、全クラス息が合っており、転倒の心配はなさそうな雰囲気だ。


 だが、転倒しなくても徐々に差が開きはじめている。涼香のクラスは七クラス中四番手だ。このままのペースなら負けてしまうだろうが、涼夏と若菜には巻き返せる自信があった。


 上位三組が次々と第二走者へタスキを渡す。


 少し遅れて涼香達もタスキを受け取ると後を追い始める。


 右にいる涼香の一歩目は右から、若菜はそれを瞬時に予測、左脚から一歩目を出す。


 涼香は若菜に合わせようとせず、自分のスピードで脚を動かす。それに合わせる若菜は、離れていく涼香の身体を引き寄せながら涼香のスピードに合わせる。


 凄まじい追い上げ、あっという間に二人は先頭に立つ。その瞬間、再び盛り上がりの最大瞬間風速を更新する。なんせ涼香が圧倒的スピードで先頭に立ったのだ。


「よそ見しない!」


 余裕を醸し出して、涼音を探し出そうする涼香を二人三脚に集中させる。


 第三走者はもう目の前、二人はタスキを渡す準備をしてラストスパート。


 後続を突き放し、第三走者へタスキを渡す。


「よっし、無事に着いた!」


 トラックから退いた若菜は息を切らしながら喜びの声を上げる。


「余裕だったわね」


 同じく息を切らした涼香がへたり込む。


 若菜は紐を解いて足が離れると軽く足を回す。


「いやもうほんと疲れるわ」

「よく私に合わせることができたわね。さすが私検定二級」

「ごめんちょっと疲れてるから黙っててくんない?」



 一方その頃。


「はあぁぁぁぁぁぁ……」


 二人が無事走り終わったと同時に緊張の糸が切れた涼音は、涼香の席に身体を沈めて大きく安堵の息をついていた。


「良かった……さすが春田はるた先輩」


 若菜なら大丈夫だと思ってはいるが、やはり緊張してしまう。



 その後、涼香のクラスはそのままリードを保ち、見事一着でゴールしたのだった。

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