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檜山家の台所にて

「料理をするわよ!」


「先輩の出る幕はありません」


「最終兵器という訳ね」


 ある日の檜山ひやま家のキッチンでのこと。


 涼香りょうか涼音すずねと冷蔵庫の前に立っていた。


 早速涼音に戦力外通告された涼香であったが、涼音の言葉の意味をいまいち理解しておらず「危なくなったらまかせなさい」と言って涼音の隣に陣取っていた。


「あの先輩? あっちで座っててくれませんか?」


「相変わらず意地悪ね。ほら見なさい、準備万端でしょう?」


 既に涼香は長い髪を後ろで一つに束ね、エプロンまで着用していた。


「……」


「がっちょがっちょ」


 涼香は涼音の背後に回り、両腕を持って横にパタパタと動かした。


 その瞬間涼音のナチュラル舌打ちが炸裂し、涼香は恐ろしいものを見たような表情を浮かべる。


「反抗期……⁉」


「あっちいっててください」


 涼音の舌打ちに傷ついた涼香は素直にあっちに行く。


 これでやっと料理ができる、と涼音は冷蔵庫を開ける。冷蔵庫に入っていたキスの切り身を取り出す。


 今日の料理はキスの天ぷらだ。揚げ物のため、万が一涼香のドジが炸裂すると甚大な被害を受けてしまう。もしかすると火傷をしてしまうかもしれない。そのため、多少キツくあたらないといけなかったのだ。


 涼音は天ぷらの準備をしながら、あっちに行った涼香へ目を向ける。


「涼音が意地悪だわ……、涼音が素っ気ないわ……、涼音が反抗期だわ……」


 椅子の上で三角座りをしていじけている涼香、なんというか……かわいそうだった。


 天ぷら鍋に油を入れながら涼音はため息をつく。


「あー先輩の助けが必要だなー」


 見事な棒読みで思っても無いこと言う涼音。しかし涼香はみるみるうちに元気を取り戻す。


「まったく! もう私の出番なの? しょぉぉぉぉがないわねぇ‼」


 意気揚々と再び台所にやってきた涼香。


「来たわよ!」


「あ、やっぱり大丈夫でした」


 再び恐ろしいものを見たような表情を浮かべる涼香であった。

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