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通学路にて 2

「ようやく蝉が鳴きだしたわね」

「一気に夏って感じしますねー」


 ある日のこと。電車を降りて学校までの道を歩いている涼香りょうか涼音すずね。周りではクマゼミが大合唱している。


「ミンミンゼミって最近鳴いていないわよね」

「あー確かに。クマゼミばっかりですね」

「ミンミンゼミが鳴かないと、夏という感じがしないわ」


 二人が小学生ぐらいの頃にはよくミンミンゼミが鳴いていたのだが、数年前からミンミンゼミの鳴き声は聞かなくなっていた。


「夏を感じる蝉と言えばあたしはひぐらしですかね」

「それも最近聞かないわね」


 もしや絶滅してしまったのでは? シャワシャワ響く通学路をのろのろ歩きながらそんなことを考えてしまう。


「今年の夏は蝉の分布を調査しましょうか」

「嫌だ……」

「冗談よ……ふふっ」


 あまりの暑さに会話も弾まない。


「日傘が欲しいわ」

「日傘って学校的に大丈夫なんですか?」

「ダメだという理由がないわね」

「あたし日傘持ってませんよ……?」


 リュックから下敷きを取り出した涼香は涼音をパタパタと扇ぐ。


「ぬっる!」

「直射日光バンザーイ」

「なに言ってるんですか⁉」


 そんなこんなで学校に辿り着いた二人。校舎内はまだそこまで暑くなっておらず、扇いだ空気は冷たいものだった。


「教室はエアコン効いてるかな」


 涼音はそんなことを呟きながら靴を履き替える。


 その呟きを聞いた涼香が、ねえ知ってる? とばかりに話しかける。


「私は秘密の場所を知っているわよ」

「また保健室ですか?」

「どうして分かったの⁉」

「いやここ最近ずっと朝は保健室行ってましたよね」

「そんなこと忘れてしまったわ」

「えぇ……」


 胸を張って言い放つ涼香に、涼音は顔を顰めるのだが、顔を顰めながらも素直に涼香と一緒に保健室へと向かうのであった。

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