目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

休み時間にて 7

 次の休み時間、涼音すずねは教室の入口を注視していた。先程の休み時間に話しかけてきたあの女子生徒が来るはずだからだ。


 すると、割とすぐにベージュの髪の毛の女子生徒が見えた。


 その女子生徒は涼音を見ると、顔を輝かせパタパタと駆け寄ってくる。


 しかし涼音は、女子生徒と目が会った瞬間席を立ち教室から出ていく。早足で。


「ちょっ、檜山ひやまさん⁉」


 廊下に出た涼音の後を慌てて追いかける女子生徒。廊下に出ると、少し離れた場所で涼音がいた。こっちに来いと手を招く涼音の下へ女子生徒は小走りで向かう。


 二人が来たのは教室から少し離れた階段前、この場所なら休み時間中他の生徒はあまり通らない。


「ねえ檜山さん、急にどうしたの?」

「別に。人が多いと話しにくいでしょ」

「そうなんだ。もしかして、檜山さんって意外と優しかったりする?」

「あたしに聞かないで。それで、悩みって?」


 できる限り会話をしたくないとでも言いたげに、涼音は強引に話を進める。


「そうそう。檜山さんってあや先輩のこと知ってる?」

「彩先輩……? それって綾瀬あやせ先輩のこと?」


 確か綾瀬彩は菜々美ななみと同じクラスだということを涼香りょうかに聞いたことがある。


 会話も少しだけならしたことがある。


「そう! 綾瀬先輩のこと!」

「まあ、知ってるけど」

「ほんとに⁉」

「うん。で? 綾瀬先輩がなに?」


 喜ぶ女子生徒に続きを促す。


「彩先輩って結構ぶっきらぼうっていうか冷たいんだけど。私嫌われていないかなって」

「は? 仲がいい先輩なんでしょ?」


 なに言ってんだと涼音が顔をしかめる。


「仲がいいんだけど! 結構当たりが強かったりするの!」

「誰にでもそんな感じだったんだ……」


 涼香や菜々美と話していて心底鬱陶しそうな顔をしていることは覚えている。だが涼音みたいに関わりを嫌がるという雰囲気ではなく、ただ素直になれないアレのような気もするが。


「ツンデレなんじゃない?」

「でもデレてくれたことないんだよね」


 腕を組んでムムム……と身体を斜めにする女子生徒。


 すると突然階段から声が聞こえた。


「あれ? 夏美なつみじゃん。なにしてんの? こんな……所で」


 三階へと続く階段の踊り場にはウェーブがかったベージュのセミロングヘアの女子生徒――綾瀬彩がいた。


「え? あっ、彩先輩!」


 夏美と呼ばれた女子生徒は彩の方を見る。彩と夏美の目が合う直前、涼音の姿を見た彩が慌てて階段を駆け上がる。


「彩先輩待ってー!」


 夏美は彩を追いかけようと階段を駆け上がるがすぐに止まる。


「ほら彩、涼音がいるわよ。さあ目に焼き付けなさい! 涼音の可愛さを‼」

「ちょっ、この馬鹿‼ 離せって!」


 彩を羽交い絞めにした涼香が階段を下りて来た。シンプルに危なかった。


「ちょっと先輩、危ないですって!」


 涼音が途中で固まる夏美を追い越して涼香の下へ向かう。


 踊り場で、彩を羽交い絞めにする涼香を引っぺがす。


「助かった……」

「先輩がすみません……」

「あら、やっぱり涼音がいたわね。どう? 可愛いでしょう? ね?」

「マジうざい。なんなの?」


 この流れに置いてけぼりにされている夏美は、呆けた様子でその光景を見ている。


「ほら夏美、めんどくさくなる前に早く教室に戻って」

「えっ……」


 突然言葉を投げつけられた夏美は肩を震わせる。


「えー、彩先輩照れてるんですかー」


 しかし夏美は教室に戻ろうとせず、階段の踊り場に上がっていき彩との距離を詰める。


「ああもう! マジでめんどくさい!」


 声を上げる彩の隣では。


「涼音に友達ができて私は嬉しいわよ……」


 口元を抑えて感激する涼香の姿があった。


 その姿を見ながら、涼音は一言。


「めんどくさいことになりそう……」

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?