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休み時間の三年生の教室にて 9

「期末テスト? 聞いたことが無いわね」


 ある日のこと。涼香りょうかはここねの頭を触ろうと、菜々美ななみにフェイントをかけながら言った。


「いや小学生じゃないんだから聞いたことあるでしょう? ああもう、ここねに触ろうとしないで!」


 菜々美はここねを触らせまいと、ディフェンスをしながら声を張る。


「減るものではないのだからいいではないの」

「よくない! バカが移るわ!」

「鏡に向かって言わないでくれるかしら?」

「赤点常習犯に言われるとムカつく!」


 下唇を噛みしめた菜々美がここねの頭を撫で撫で。


 三年生の前でなら、ここねの頭を撫でたり抱きしめることができる菜々美。もしここに他の学年の生徒が来てしまったら恥ずかしさで爆発してしまう。それがたとえ涼音すずねであっても爆発してしまうだろう。


「ふふっ、ムカつくのならここねを触らせなさい」

「いーやーでーすー! 涼香は涼音ちゃんを撫でればいいじゃない! 浮気? 浮気するの?」

「違うのよ、みんなここねの頭を触ろうとしているものだから、気になってしまうのよ」

「ここねは誰にもあげないぃぃぃ!」


 菜々美の絶叫が教室にこだまする。


「菜々美ちゃん、大丈夫だよ」


 そんな中、菜々美に抱きしめられているここねが口を開く。抱きつく菜々美の頬に優しく触れて、笑顔を向ける。


「菜々美ちゃん以外の人には触られないようにするね」

「ここね……⁉」


 まるで雲間から降臨する天使を見たかのような表情をする菜々美。ここねは軽く首を傾げる。黒髪のサイドテールがシャンと揺れる。鈴の音が聞こえた気がした。


 二人は熱い視線を交わし合う。どことなく甘い雰囲気が教室を満たそうとするが――。


「あら涼音、急に来てどうしたの?」

「あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」

「菜々美ちゃーん!」


 菜々美は爆発した。



 一方そのころ、二年生の教室では。


「くちゅん」


 恨めしそうに上を見る涼音がいた。

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